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明け方の若者たち

「私と飲んだ方が楽しいかもよ?笑」これ以上にずるい誘い方が他にあるのだろうか。

明け方の若者たちの冒頭、主人公の僕と、彼女の出会いはそのセリフから始まる。

小説『明け方の若者たち』を読み終えて、私は強い衝動に駆られた。

この小説を読み終えて、今の気持ちをどこかに残さずにはいられない。


現21歳の私には、自分の実体験ではないかと思うほど、日常生活に溶け込んでくる作品である。

この小説に書かれている、情景描写、セリフ、登場人物の心情、主人公のプレイリスト、そのどれもが私の日常とリンクしており、とても他人事では読めない作品であった。

主人公の”僕”が悲しめば私も悲しくなり、”僕”がその時その時で思う心情は、おそらく私がその状況に置かれても同じように考えてしまうことであり、”僕”が強いられる人生の決断に私も同じような決断をしてしまうだろうなと思う部分が沢山ある。


この小説を読み終え、今までのことを、あの人のことを、あの明け方の空のことを、考えていたい、と思った。
過去を思い出すことは、それほど悪くないのかもしれないから。


忘れかけていた、いや忘れようとしていた記憶を失わずにいられたのはきっと、この小説と出会えたからだろう。


心に残ったセリフ

「だって、何物か決められちゃったら、ずっとそれに縛られるんだよ。結婚したら既婚者、出産したら母親。レールに沿って生きていたら、どんどん何者かにされちゃうのが、現代じゃん。
だから、何者でもないうちだけだよ、何してもイイ時期なんて。

下北沢は湿ったアスファルトの上で静かに光るp48



減点方式の人生。
そんな言葉が頭をよぎる。総務部の仕事は、誰がやってもできて当たり前、間違いは許されない世界だ。百点満点だけが価値を持ち、それ以外は極力排除されていく
何かを企画して、カタチにして、世に広めていく。そんな働き方がしたいと、学生時代によく面接官にぶつけていた。あの漠然とした情熱の意味が、今になってようやくわかる。多分僕は、単純に、誰かに褒められたかったのだ。
加点方式の人生とは、そういうことだ。
ゼロからスタートして、十点でも、二十点でもイイからプラスを積み重ねていく誰かの助けになったり、元気付けたりする。その結果、誰かから、それも、多くの人から、もしくは、自分にとって特別な存在から、認められたりする。

唯一の憂鬱な真実p138


人生は打率で表さないんだよ
野球と違って、何回打席にたってもいいし、何回三振を取られてもいいの。ただ、一度だけ特大のホームランを出す。そうしたら、それまでの三振は全て、チャラになる
「人生における”打席”って何を指すの?」
「起業でもいいし、転職でもいいんじゃない?要するに、環境を変えるすべてだよ。

唯一の憂鬱な真実p143



人は弱ったとき、助けてくれそうな人から連絡するんだよ。フッた側はいつまでも自分のことを好きでいてくれると勘違いしてるから、お前に助けを求めれば、絶対に助けてくれると知って、甘えてくる。でもそれは、おおよそ好意とは別のものに決まってる

現実まみれの夢の国p176


失恋の傷は、異性で癒そうとするな、時間で癒せ。寂しさを埋める為にする恋愛は、人を成長させねーよ。

現実まみれの夢の国p177



大切な人は、いつも突然いなくなる。でも実は「突然」でもなんでもなくて、きっと行動や表情には見えない機微が積み重なって、「突然」のように見えているだけなんだ。

また来年になってもp205



普段連絡を取っていなくても、ふとした時にはきちんと繋がる。数年会っていなくても、再開した瞬間、昨日の続きのように話ができる。そういう人間が人生には数人存在していて、その人だけを親友と定義しようと思った。

選ばれなかった僕らのための歌p225


「二十三、四歳あたりって、今思えば、人生のマジックアワーだったと思うのよね」
「オールで遊んで、明け方ダラダラと話して、翌日しんどいながらに会社に行く。あれって若いうちしかできないことだったんだよ。だから、こんなハズじゃなかった!って、高円寺の隅っこで酒飲んでたあの時間こそさ、人生のマジックアワーだったんじゃないかって、今になって思うのよ」

選ばれなかった僕らのための歌p233


”こんなはずじゃなかった人生”に打ちのめされている人もいるかもしれません。もしくは、これからそのような境遇になる人もいるかもしれません。


それでも、振り返れば全てが美しい。そう思わせてくれる小説です。


人生のマジックアワーを描いた、20代の青春小説です。
是非一度、読んでみて下さい。

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