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水仙のうた


病院手前の
橋の上で父の車と
すれ違った
クラクションを
鳴らして降りて
きた父は 

今夜の付き添いは
俺に頼むと言った
東京から逃げて、
家からも逃げて
きた、この俺に

個室に入ると起き上がれない母は
曇りのない眼差しで天井を仰いで
「いまに私はペシャンコにされるのよ」
と指差して笑ってみせた

「大丈夫だよ」
と俺は力なく笑い、

いったい、何が大丈夫なのか?
こんなになるまで、
こんなになるまで、
おまえは何をしていた?

夢のなかで瀕死の母は
ベッドでのたうち回り
俺はガラス張りの窓の
向こうからそれを
眺めていた

翌朝、小鳥の声で
目が覚めると母の
朝食を運んできた
看護師が脈を測り
慌てて医師を呼んだ

どうして、俺は眠ってしまった?

フラフラの頭で家に戻ると
サヨナラも言えずに庭で
焚き火を燃やしていた
父が白い花を指さした
それは病気の母が
泥だらけの指で
植えた球根で

いつのまに咲いたのか

辺り一面に
   白い水仙が
     こちらにも、
       そちらにも、
          あちらにも、

   「お帰り」
      「おかえり」
          「お帰り」 
     と囁くように

まだ冷たい春の風に
   吹かれて
     そっと、
        微笑んでいた
            微笑んでいた

去年は1つも咲かなかったのにね☺️


#自由詩
#現代詩
#水仙
#親不孝  










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