経験。
懐かしい環状2号線を背景に、くすんだ未来を見ている。僕は近未来と遠方の死に姿の両方に焦点を合わせながら、立体的に苦悩する明後日の午後を、日光を浴びながら想像している。これ以上背は伸びない。これが何を意味するかわかるか。僕は分かりたくない。分かりたくないまま船を漕ぎながら、思いのほか巨大な自分の体を意識して、輪郭をなぞっては絶望するのだ。汗がない。蒸発。少しでも遠くに意識を飛ばす必要がある。ここだけスペースが空いている。座っていいのか。充電器のコード。伸びながら僕は髪を撫でて、立体から意識を逸らす。うまくいかない。うまくいかないのだ。小さい空間だけあれば良い。音は聞こえない程良い。賑やかとざわめきは違う。僕はまだざわざわしている。個人的なサイズで後悔をしたい。息継ぎみたいな騒音。想像。一滴垂らして試験管の色が変わるみたいに、いとも簡単に呼吸は乱される。変わらないでいてくれ、変わらないまま自殺してくれ。最後に見た景色の色が、あのときと同じ色をしていることが最低条件なのだ。原色の商店街。原色の街並み。あらゆることを飲み込んであなたは今、虹色の湖に溶け込む。それで良いのだ。それが見たかった。安心して塊となれる。硬直物と化す上半分の脳みそ、融解。これで良いのだ。硬いということは正確だ。正確であればあるほど、割り切って飲み込むことができる。そうだろうか。そうなのだろう。僕は今、海を目の前にして立っている。柔らかくてなお硬くあればこそ、正確性が担保されたまま死ねるのだ。失わないでくれ、あなたは、あなたを。最後まで見ないで。最後まで見ないで!最後に最高なことなんて何ひとつない。あるのはただ、薄暗くて湿った夕闇と、かけらほどの小さい絶望なのだから。
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