見出し画像

富士急スケートリンク ズタボロ日記

りくりゅうペアになりたい。
いやいや、そーじゃなくて。
皆さんは何かスポーツはやりますか?ちなみにボクは昔から全日本女子バレーのファンで、女子サッカーも応援してる。どっちも高校生大会から欠かさず見ているぐらいスキ。
で、やる方はというと、未だに泳ぐのも5メートルがやっとだから、どうもそっちの才能は皆無らしい。スキーもはじめてやった時、板で滑ってるより背中で滑ってる時間の方が長かった。
そんな己の運動神経のなさを、ボクは小学5年生の時に早くも思い知ることになる。

今から45年も前になる、忘れられない記憶だ。

当時のボクは小学5年生で、5年3組のクラスだった。
この5年3組は男性のS先生がとても良い担任で、それもあってかクラス全員が仲が良かったのを覚えている。
その冬休み明け、先生が引率して富士急ハイランドにクラス全員でスケートに行くことになった。乗り物酔いがしやすかったボクはあまり遠足も好きではなかったが、この時は、何だか楽しそうではあるな、と思って参加した。
その日は東京駅に集合して、そこから高速バスに乗り、富士急ハイランドへ到着。心配した乗り物酔いも薬を飲んで、事なきを得た。
スケートをやるのは、この時が生まれて初めてだった。
今更ながらに言うが、どのスポーツも、選手がやっているのを見て感じるほど簡単ではない。特に冬季オリンピックの選手の技は人間技とはとても思えない。
話はもとに戻すが、とにかく富士急のスケートリンクで、まずスケート靴を借り、リンクへ出てみた。
ボクの想像では、そのままリンクをスーと華麗に滑りはじめ、クラスメートと笑い合いながら、キャーキャーやっている姿だった。
しかし、現実はまるで違った。
スケート靴の刃が思ったより重い。そしてまっすぐ立つことが壊滅的にできない。
あの細い刃を軸に立つことに、足のバランスがとれないのだ。まっすぐ立とうとしても、ぐにゃりと内側か外側に曲がってしまう。図で解説するとこうなる。↓

伝わるだろうか。絵が下手なので、勘弁して下さい。

ボクの予想を反して、ほとんどのクラスメートが、スイスイと滑り始めていく。なんだオマエら、やったことあるんかよ、生意気だよ、だったら教えるぐらいしろや。
ボクはリンクの手すりにつかまったまま、生まれたての小鹿のように足をガクガクさせたままだ。
足が通常ではあり得ない方向に曲がったまま、ようやく手すりを離れたが、クラスメートはみんないなかった。唯一近くにいたのは、一番仲の良かった秀才のE君で、やっぱり靴がひん曲がって苦戦していた。
そんなヨタヨタなボクらを尻目にクラスメートたちはスイスイ滑走し、早いヤツはもうリンクを一周している。
なんだよこれ、靴どーにもなんねーな、どうしたらまっすぐ立てるんだ?
担任のS先生もどこかへ行ってしまい、ボクとE君が取り残された感じだった。
なんとかヨタヨタやっていると、先生が戻ってきて、みんなを集めて号令をかけた。
「みんな、オレがここでカメラ構えて待ってるから、一周してきなさい。ゴールした人から写真撮ってあげるよ」
みんな、ワーと歓声を上げて再び滑りはじめた。
よーし、ボクもがんばるぞ、一周して格好良くないけど、写真に撮ってもらうんだ、それが思い出になるよね!
ボクはヨタヨタと出遅れて、同じくヨタヨタ前を滑るというより靴を引きずってる状態のE君の後を追った。
たかが一周が、とても長かった。くるぶしあたりが擦れて痛い。それでもボクは写真に撮ってもらいたい一心で、なんとかリンクを周った。
先頭のやつらはもうとっくにゴールしているほど時間がかかった。
写、写真、先生ボク頑張ったから、写真撮ってくたされ!
しかし、現実は残酷だった。ゴール付近には、もはやクラスメートはおろか、先生も誰もいなかった。
E君も「ちぇ、誰もいねーや」と苦笑していた。
チッキショー!完全にのけ者じゃないか!
もうボクにスケートを楽しむ余裕はなく、くたびれ果てて、傍にあった円形の休憩スペースのところへ行き、ガックリと腰かけた。
スケートつまんねーな、大体あんな細い刃でどーやって立てってんだコノヤロ、もう帰りたいな。
そして重いスケート靴を座っている足下に寄せたら、日陰になっているそこの部分の氷が溶けていて、足首くらいまで冷たい氷水に浸かってしまった。
あーあ、足が痛いし、冷てーし…。
ボクはスケート靴を今すぐ脱いで、リンクへ放り投げたい気分だった。

ようやく帰り時間になり、先生の引率で、バス乗り場へ向かう。
ボクはキツネ目のまま無言だった。
しかし、ここで唯一落胆しているボクを奮い立たせることがあった。
バス乗り場の近くにある飲み物の自動販売機に、「ファンタレモン」が売っていたのだ!
ジュースが大好きなボクにはメッチャ嬉しかった。当時「ファンタレモン」が発売されたばかりで、なぜか東京の地元には出回っておらず、まだ飲んだことがなかったのである。
ボクは意気揚々と自販機にお金を投入し、ゴクゴク飲んだ。ウマイ!疲れているので、甘みが体に染み渡るようだった。
だが、これがボクがこの日犯した最後の失敗だった。
乗り物酔いをしやすい人は、搭乗前、こういうジュース系を飲んではいけないのだ。コーヒーも同様で、一層酔いやすくなる。
すっかりそんなことは忘れていた。
高速バスが東京へ向かう中、途中から、ボクは酔いはじめていた。はじめはクラスメートとワイワイ騒いでいたが、やがて次第に無口になり、車窓を流れる景色を呆然と見つめたままだった。
そんなボクの事情を知らない橋本が隣りで騒ぎまくり、ラムネの入った容器に水を入れて泡が吹きだしたのを面白がって、ボクにちょっかいを出してくる。
同じような経験をした人ならわかると思うが、こういう時、話かけられるのはツラい。
「うるせーな、オレは気持ち悪いんだ、話しかけんな」
そう怒り、迷惑な橋本は他の座席に出張していった。
もう東京駅に着くという頃、ボクは限界マックスになり、一人でいるスキを狙って(?)用意していたビニール袋に「ファンタレモン」を吐いた。
乗り物に酔いやすいとはいえ、遠足を含めてこういう機会にゲロを吐いたのは、後にも先にもこの時だけだ。
ボクが座席の隅にゲロ袋を隠したタイミングで、隣の座席に橋本が戻ってきた。
ボクは橋本に「今、ゲロを吐いた」とぐったりして言うと、橋本は心配するどころか、
「ウソ、マジ?見せて」
と意味不明なことを言った。なんでオマエにオレのゲロ見せなきゃなんないだよ!?と、二の句が告げなかった。
バスを降り、ゴミ箱にゲロ袋を投げ入れ、ズタボロの状態で家に帰った。
ちなみに、ボクはこの日以来、ただの一度もスケートをやったことがない。

だから羽生結玄の華麗な姿でもなく、浅田麻央の奇妙な顔のトリプルループとかでもなく、ボクがスケートの大会をテレビで見て思い出すのは、あの日の無残な富士急スケートリンクなのである。

恥の多い人生です。笑ってやって下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?