日本の食料システムにおける課題

食料システム*が環境問題を引き起こしている、と最近よく耳にしますが具体的に食料システムのどこに問題があって、どんな環境問題を引き起こしているのか漠然としている方が多いんじゃないかと思っています。

*食料システムとは、食料を生産から消費までのネットワークを指しています。

食料システムが引き起こす環境問題

よく指摘されているのはCO2排出だと思います。最近の論文で、世界のCO2排出量のうち、34%程度が食料システム由来であることが明らかになりました(https://www.nature.com/articles/s43016-021-00225-9)。
その他にも、カカオやアボカド栽培のよる強制労働も問題になっています(広義の環境問題)。
これらの課題に優劣をつけることはできないですが、それでも早急に取り組まないとまずいことになる問題があることが分かってきました。
それが窒素汚染です。
なぜ窒素汚染が深刻なのかということを、プラネタリーバウンダリーの概念を提唱した有名な論文が端的に示してくれています。以下。

2023年版プラネタリーバウンダリー(Stockholm Resilience Centreより)

まず、プラネタリーバウンダリーが何かというと、地球環境問題を主要な9つの項目(気候変動、生物多様性とか)に分けて、現状のヤバさをリスクとして示した図になっています。
この前まで2015年版しか公開されておらず、2023年になってより一層事態が悪化してることに驚いています。
プラネタリーバウンダリーの図を見てもらうとわかるんですが、実は、気候変動(左上のClimate Changeの部分)よりも窒素循環(下のBiogeochamical flowsの部分)の方がハイリスクなんです。これは2011年や2015年から変わらずにハイリスクの状態です。

なぜ、食料システムが注目されるのか

そんなわけで窒素汚染が地球規模で問題になっていることがわかったかと思います。
それでは、なぜ窒素汚染で食料システムが注目されているのか。
実は、窒素汚染のほとんどは食料システムが占めているんです。
あまり知られていないかもしれませんが、現状の食料システムからは反応性窒素が多量に流出していることがわかっています。 
反応性窒素はなんぞや、となるんですが、難しい言葉ではないです。いわゆるN2ガス以外の窒素形態の事を指していて、アンモニアとか硝酸とか生物が利用できる形態の窒素のことです。
これら反応性窒素が食料システムこらどう流出するのかと言うと、
具体的には、農地にまいた肥料が地中に溶け出して、地下水中に硝酸対窒素として流出する場合や、アンモニアとして揮発する場合、温暖化ガスである亜酸化窒素として揮発する場合など様々です。ほかにも家畜糞尿の処理が適切でないと(適切であってもですが)アンモニアとして揮発します。

こうして環境中に流出した窒素がどういった影響を及ぼすかというと、人間の健康被害や富栄養化による赤潮、温暖化、などなど。

赤潮

窒素汚染というと地味な問題に聞こえますが、実は我々のよく耳にする地球環境問題に密接に絡んでいます。
それなら反応性窒素のもとになる化学肥料を使わなきゃいいじゃん、と思うかもしれません。が、そうすると世界人口の半分程度が飢餓に陥ると言われてます。
上記の通り、窒素には良い面も悪い面もあるので、環境問題が出ない程度に使える窒素の量を試算している方がいます。
Vriesという科学者で、いわゆる持続可能な窒素の利用量を提唱しています。どんな試算の仕方なのかを別記事で書きます。
ちなみに、この人の論文がいまのプラネタリーバウンダリーの窒素のモデル計算の基になっています。


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