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【小説感想】江戸川乱歩「人間椅子」 劇中小説はどこまで真実なのか?

江戸川乱歩の小説「人間椅子」の感想

劇中に出てくる小説の内容は、どこまでが本当でどこからが嘘なのか?
この問いは、研究者の中でも意見が分かれると聞いたことがあります。

みなさんはどう思われたでしょうか。

私は

劇中小説の内容はほぼ嘘で、作中世界に『人間椅子』は実在しない

嘘の内容で小説家の女性を驚かせてニヤニヤしているような、
そういう関わり方しかできない憐れな男の精神性を『人間椅子』として表している

…と思いました。

以下、内容把握のためにざっくりまとめた個人的あらすじと、小説「人間椅子」の感想です



「人間椅子」 個人的あらすじ

屋敷に住む女性作家に一通の手紙が届く
原稿用紙だけど手紙っぽい文体

小説か?と思い読み進める

小説の内容↓

顔が醜いのをコンプレックスに思う男
人と会うのが苦手で、得意なこともなく…
その後椅子職人になった

それが向いてたみたいでオーダーが来る職人になれた

ある日注文された椅子に細工をした
空洞をつくって、中に人が入れるように
水とか食糧置けるのと、ゴム袋を用意して
2.3日椅子の中で暮らせるかんじで
そして中に入って、運ばれていった主人公

ホテルのラウンジで椅子として過ごす
最初は泥棒しようと思っていたけど
だんだん椅子として人と関われる楽しさに目覚めて
ずっと椅子の中へ

そして女性の感覚に興奮する
けど外国人だとやっぱり恋にはならない
日本人の女の椅子になりたいなーと思っていたところ
ホテルがなくなるか何かで椅子が売りに出されて
お金持ちの屋敷の、女性の部屋の椅子になることになった

そしてその女性の感触に恋をして…って続いて
「その女性とはあなたですよ」で手紙が終わる



「あなたに逢いたい」という男に戸惑う女

もう一通新たに男から手紙が届く

「今のはあなたに読んでもらいたい小説です、言い忘れたけど。
タイトルは『人間椅子』ですよ。どうでしたか?」


…女は衝撃で汗がとまらなかった

【おしまい】


感想

【※かなり雑感ですが、思考がまとまってくる過程をお楽しみください】


どんでん返しのさらに返しで表がえってるかんじ?

最初は実際に人間椅子を実行する男の話だと思ってたけど

これ、妄想を手紙にして意中の小説家の女に送ってニヤニヤしてる男の話なのでは?


これは
壁になって人を観察していたいっていう、のぞき見の快感というか

自分は相手とコミュニケーションとりたくないけど
人恋しくて、他者とは関わりたい
っていう
そういう願望は少しわかるなと思った

その願望の大げさな表現としての、「人間椅子」なのかな


でも主人公、「あなたに一度会いたい」というのは意外だと思った
コンプレックスのある顔で意中の相手に会いたいというのは違和感あるなーなんか

やっぱり創作かなこれ?
小説の内容かな
だってあの男が「人に会いたい」っていうの違和感あるから
女性を脅かして終わるあの内容の舞台装置でしかない感じがするから
やぱりこの原稿用紙の内容はフィクションかな

だからさ
実際のこの男はさ
女性の小説を読んで女のことを好きになって
「どうにかこの人と関われないかなー」と思って
気を引こうと考えて
この創作小説を出したんじゃないだろうか


結局これも
「小説を使っての、非対面コミュニケーション(一方的な)」で
人間椅子とおんなじなんだよな
手段が人間椅子か、小説かの違いで

直接顔を合わせないで、一方的に相手と関わってニヤニヤする…
同じだこれ
だから小説の男と、その書き手の男は、精神性が同じなんだろう

劇中小説の男と、書き手の男、どこまで一緒かっていうと…

『顔が醜いとコンプレックスのある男
これと言って取り柄がなくて、仕事もさえない』

…と、ここまでは一致してるんだろうな

読んでて思った
「これと言って仕事の才能ないのに
なんで椅子職人の才能はあるんだ?手先器用じゃないか」って違和感あったんだけど。


…これ、フィクションだ…

本当の書き手の男は「才能のない男」であって
椅子職人みたいな才能はない


あーやっぱりこれ実際には人間椅子は存在しないんだろうな

嘘の小説で、小説家の女を驚かせてニヤニヤしてる
そういうことでしか関われない
憐れな男の精神性の話なんだ

その精神性の比喩として、男の小説にモチーフとして出てくるのがきっと『人間椅子』なんだろうな。


「人間椅子」は、うわー…と頭抱えたくなる後味が面白い作品でした。

#感想 #純文学 #人間椅子 #江戸川乱歩

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