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超短編小説「人気の店」

お題:黄金のうどん

人気の店


黄金色こがねいろのおあげが透き通っただしへとかぶさり。そして完成する至高のうどん。

‥‥ではない。比喩表現ではないのだ。実際に、輝いている。

(なんだこれは?)

……地元に最近できたうどん屋のチェーン店「麺屋こがね」。俺の地元は大層田舎なので、こういったブームは遅れてやってくる。一年前に流行った「黄金色のうどん」とやらを提供する店舗が、ついに地元にやってきた。
流行など気にする性質でない俺ではあるが、たまたま昼時に時間が空いたので足を向けることにした。そしてメニューもあまり見ずに一番安いかけうどんを注文し、今に至る。

なんだ?うどんが輝いている、まばゆいばかりに。これはどういった仕組みなんだ。
早速すするが、味はいたって普通。まずくもないが、取り立ててうまくもない。しかし、ピカピカ光るだしとうどんが自分の腹の中に消えていく様は、なんとも愉快ではあった。

「ごちそうさん。なんだかわからんけど、満足したよ」

「まいどありー!こちら、次回に使えるクーポン券でございます」

俺は光るうどんをゆっくり堪能したのち、満ち足りた気分で店を出た。‥しかし。

「なんか小腹がすいたな。さっき食ったばっかりだってのに、もう一つ足りないっていうか」


―――後で分かったことだが、「麺屋こがね」のうどんが食用蛍光塗料を使用したもので、そのまばゆさに客がうどんの量を視認できないのを利用して、こっそり量を減らしているとのことだ。
気持ちは満たされ、腹はたいして満たされない。しかし不思議な満足感がある。

うーん、なるほどこれは人気がでるな。クーポン券ももらったことだし、近いうちまた行くか。

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