家がなくなるまで-5
24時間テレビを楽しみにしている小学生の息子とふたりで暮らすシングルマザーのわがぶたです。
今回のお話でホテル生活も終了できるかと予定していましたが、延長戦に突入するかも……です!
もう少しだけお付き合いいただけますと幸いです。
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家での生活を再スタートさせる覚悟をしていた私たち親子。
とはいえいきなり全てを元に戻すことは難しかったのです。
部屋を暗くしようとすると息子が不安気に身体を縮こまらせてしまいました。
布団を頭から被って丸まり、「電気点けて」と言う姿は1年経った今でも鮮明に覚えています。
電気もテレビも点け、数年ぶりにぽんぽんしながら寝についたのが21:00でした。
それから3時間、息子は寝ることができませんでした。
「眠いのに目つむるのが怖くて、目閉じれない」
日を跨ごうとしたとき、息子はそう震えながら泣きだしました。
あぁ、無理だった。
瞬時にそう判断し、また簡単な荷物を持って家を出ました。
この日は幸いにも家の最寄り駅前のホテルが空いていました。
ですが、時間は深夜も深夜。週末の駅前の混沌の中を子どもと手を繋いで予約していたホテルに駆け込みました。
深夜に突然電話をし、「今日泊めてもらえませんか」と切羽詰まった様子で宿泊しに来た親子。
私がフロントマンでも怪しむと思います。
事件性を疑われたのでしょう。
受付で30分ほど尋問のような質問を受け続けました。
宿泊の理由だとか、身分証明書のコピーだとか、いかにも怪しまれているのをビンビンに感じていました。
でも私も引くわけにいきません。
ここを逃せば、今日寝る場所がないかもしれない。
受付のソファで船を漕ぎ出した子どもを、布団で寝かせなければ。
その一心でフロントマンからの問いかけに答えました。
そしてやっと部屋に入れたときには1時半過ぎ。
喫煙部屋しか空いておらず、部屋に入ってすぐに子どもは鼻をつまんで「臭い」と文句を言いながらも、ベッドに入ればすぐに寝付いてしまいました。
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翌朝、ホテルの方に連泊が可能か聞いたところ、やはり部屋が空いていないと返事がありました。
このとき、もうあの家に戻る選択肢は私の中になく、空き部屋を探す私の隣で黙っていた息子も、きっとわかっていたのだと思います。
それでも世界は冷たいだけじゃなかった。
前の日に私と尋問じみた質疑応答を繰り広げていたフロントマンの方が「負けないでくださいね」と、子どもにお菓子をくれました。
そして数駅先のビジネスホテルなら空き部屋がある可能性が高いと教えてくれました。
教えていただいたビジネスホテルに連絡すれば、夏休みの週末でしたが部屋が空いているとのこと。しかもビジネスホテルなのでお値段も予算内!
連泊できるように服は数着もってきていましたが、やはり夏ということもあり洗濯機の確保も必須項目でした。
この日宿泊したホテルにはコインランドリーが設置されていたので、とても助かりました。
さて、実はこの日の朝、不動産屋さんの部長(担当の方の上司)からご連絡がきました。
私で依頼していた害虫駆除業者の領収書とホテルの領収書を送るよう言われました。
かかった費用を補償してもらえるのか聞いたところ、それは返事できないと言われました。
でも少し風向きが変わってきているのを、たしかに感じました。
フロントマンの方の言葉が、俯いていた私の顔を上げさせてくれたのかもしれません。
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それから同じビジネスホテルで1週間を過ごしました。
会社には事情を話し、ホテルでの就業を認めてもらいましたので家に帰る必要もなくなりました。
洗濯機もある、シーツも毎日交換してもらえる。
それでも『自分の家』には敵わないと感じることばかりでした。
まず1番困ったのは、食事です。
当然、ホテルにキッチンがないので食事は基本的に外食もしくはコンビニご飯です。
コンビニご飯で栄養が偏らないように。そう思うと、1食で驚くほどの金額が飛んでいってしまいます。
とはいえ外食もお金がかかる。
結果として不動産屋さんが宿泊費を負担していただくことになりましたが、実は食事代も結構な額が飛んでいっていました。
次に困ったことは、騒音です。
宿泊していたのは駅前のビジネスホテルでした。しかも割と新しい建物です。
夏休みで東京に遊びに来ている学生がたくさん泊まっていたのです。
酔っ払った方が部屋を間違えたのか私たちの部屋のドアノブをガチャガチャしてきたり、廊下で叫んでいたりと、思いがけないところで睡眠を妨げられました。
あとは毎日洗濯機が空くのを数時間待たなければいけないだとか、飲み物も買いだめできないだとか、細かな困り事をあげればキリはありませんでした。
それでも今日、明日、寝れる場所があることが幸せでした。
ホテル生活最初の2日は「今日、どこで寝よう」という不安で胸がちぎれてしまいそうでしたから。
明日の寝床が決まっているという、今まで当たり前だと思っていたことをこれほど幸せに思うとは……。
ビジネスホテルでの生活が6日目を迎えた夕方のことでした。
とりあえず新しい家が決まるまではホテル生活かと思い、フロントへ宿泊延長を申し出に行きました。
「今週の土曜だけ、部屋の空きがないんです」
そして受付の女性は、話を続けました。
「今週末はこの辺りで部屋を探すのは難しいと思います」
受付の方に教えていただいた通り、なぜかその週の土曜日だけ、付近のホテルが埋まってしまっていたのです。
コインランドリーも食事も贅沢を言わないから、とりあえず寝れる場所を探さなくては…。
増えた荷物を入れるために購入したスーツケースを転がしながら、私と子どもは真夏の夜に東京の街を歩きました。
途中で夕飯のために寄った焼き鳥屋では、私も子どもも3本も焼き鳥を食べられませんでした。
「今日どこで寝るんだろう」
そんな不安で胸がいっぱいだったのだと思います。
暑い、早くシャワーを浴びたい。
冷房のきいた部屋に行きたい。
布団に横になりたい。
なにより、安心したい。
子どもはずっと、私の隣で喋り続けてくれました。
新しい家が見つかったらしたいことを、たくさん話してくれました。
ずっと笑っていてくれて、そんな息子の笑顔に救われました。
本当ならば私が息子を元気づけなければいけなかったのに、申し訳なかったと今でも後悔しています。
そして数時間電話をかけながら移動し続けました。
私たち親子がやっと辿り着いたのは、連泊していたビジネスホテルから電車で1時間半のシングルルームでした。
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拙い文章をお読みいただき、
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