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韓国ドラマから考える「景宗(二十代王)」と「ヨニン君(英祖・二十一代王)」              「トンイ」と「ヘチ」と「テバク」を観て

朝鮮二十代王景宗は、あの悪名高い張禧嬪(チャンヒビン)の息子である。張禧嬪(チャンヒビン)は朝鮮三大悪女の一人と言われていて、十九代王の粛宗(スクチョン)の側室であったが、王妃を呪詛したという罪で粛宗から毒薬を賜り、処刑されてしまう。その時から十代前にちょうどそれと同じ事件があった。それは、九代目の王様である成宗の側室尹(ユン)氏が成宗の顔に傷をつけたという理由から王によって毒死の刑となったのである。この事実はひたすら隠されていたが、尹氏の子、十代王燕山君(ヨンサングン)は成人後にその事実を知ってしまい、ついには狂人の如くに復讐をはじめる。「インス大妃」というドラマの中で、自分の母をいじめた成宗の側室二人を撲殺する場面がある。はたして人間はここまで酷(むご)くなれるのであろうかと思われるぐらいに陰惨なシーンであるが、これは事実である。
燕山君(ヨンサングン)は最後には、宮廷クーデターが起きて、王の座を引きずりおろされ、江華島に島流しとなり死んでしまうのである。

ヘチの景宗


ヘチのヨニン君

 景宗は、その燕山君の悲惨な史実に学んだようである。もしも自分が周りに対して、同じような復讐をすると、最後はどうなるか。それは歴史が教えてくれていた。そしてもうひとつ、自分の王座のあとを虎視眈々とねらうヨニン君がいた。このヨニン君の存在も、景宗が暴君とならない歯止めとなっていたにちがいない。
 そこで景宗は王となって、善政を行うのである。しかし、自分は子供をもうけることができないからだであることを知っている。このことは、ドラマ・トンイの中では病気になってそうなったと描かれているが、朝鮮王朝実録によれば、張禧嬪(チャンヒビン)が死を前にしたとき、自暴自棄となって景宗の下焦(膀胱の上のあたり)を鷲つかみにして強く引っ張って、景宗は気絶して、男性機能が果たせなくなってしまったと書かれてある。      
つまり、景宗には子ができない。景宗のあとはヨニン君が王となるのである。そのことは決まっていた。景宗はできるだけ長生きをしたいのであるが、果たしてそうはいかないのである。

テバクの景宗


テバクのヨニン君

一方、ヨニン君はどんな思いであったであろうか。ヨニン君とは、みなさんご存じのトンイ・淑濱崔氏(スクピンチェシ)の息子である。母は、賤民の出である。粛宗が死んで、景宗が第二十代の王となった。そしてヨニン君は世弟(セジェ、次の王となる王の弟)となるのである。しかし世弟となってもその立場は不安定であったといえる。
 当時の朝廷は、少論派(そろんは)と老論派(のろんは)に二分されていた。少論派は景宗を支持し、老論派はヨニン君を支持していた。少論派は、露骨にヨニン君に言うのである。「身分の低い者から生まれた王はいらない」
 となると、ヨニン君も不安であったであろう。またもうひとつ、ヨニン君にとって不安な材料があった。それは、弟の延齢君(ヨルリョングン)の存在である。この弟は粛宗に随分可愛いがられていた。ひょっとすると世弟の座は延齢君(ヨルリョングン)に奪われてしまうのではないか。そんなことが頭をよぎっていただろう。


 だがヨニン君にとって幸いなことに延齢君(ヨルリョングン)は早く死んでしまうのである。十九歳であった。景宗が王になる一年前である。粛宗はまだ存命であった。粛宗はたいそう残念な気持ちだったであろう。
 そして景宗が王になる。六歳年下のヨニン君が次に望むことは、景宗の早い死であった。景宗は元来、虚弱な体質であったといわれている。それゆえに、早死にすることとなったのか、それとも毒殺されたのか。

トンイの景宗


トンイのヨニン君

ドラマ・テバクにはこんなシーンがある。それは、体調の悪い景宗に、ヨニン君がケジャン(カニ)と柿を持っていくのである。当時、カニと柿は食べ合わせが悪いと言われていた。これをきっかけに景宗は下痢と腹痛を繰り返し、とうとう死んでしまうのである。
 景宗が王となって四年、三十六歳のときであった。ヨニン君に景宗を毒殺しようとする意図があったのかどうか、それは今となってはわからない。しかしながら、ヨニン君が望むとおりの結末となり、三十歳で二十一代英祖が誕生する。その後、五十二年間在位し、朝鮮王朝史上最も長い王となる。
 この英祖も、後継者である思悼世子(サドセジャ)とバトルがあり、思悼世子(サドセジャ)を米櫃(こめびつ)に閉じ込めて死なせてしまうという、親としてはやるせない悲しい出来事がおこってしまう。もし、英祖が本当に景宗をかつて毒殺していたならば、悪を出せば悪がかえってくるという歴史の必然の結果の姿を、私達はここに見ることができると思うのである。


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