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【はじめに】


勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。

この言葉は、江戸時代、平戸藩第9代藩主、松浦静山(まつらせいざん)が残した言葉です。

江戸中期泰平の世にあって、静山は、幼い頃から記憶力に優れ、学問を愛した一方、剣術を究め、弓・馬・槍術や柔術まで武芸全般を修行。藩校・維新館を設立して自ら学問を講じ、武芸の普及を図りました。

予期せぬ失敗やミスをしたとき、人は往々にして「運が悪かった」「ついてない」で片づけがちになります。

それはそれで気持を切り替え、ポジティブな方向にもっていく上で必要に見えますが…。

・失敗した場合には必ず原因がある。

・失敗しないためには、普段から努力し、当たり前のことを当たり前に行い、最後まで手を抜かずに全力でやり通す…。

私はビジネスの世界に身を置いていますが、静山の言葉は、ビジネスの場面でも通じる鉄則のような気がします。

原典を調べてみました。

静山は、「不思議の勝ちあり」について、

「道に遵(したが)い術を守るときは其の心必ずしも勇ならざると雖(いえ)ども勝ちを得。是れ心を顧みるときは則ち不思議とす」

と言っています。

何やら難しそう…。

「道に従い、術を守って戦えば、強い精神力がなくても勝てる。それを後で振り返ってみると不思議なことと思う」という意味かと思います。

「不思議の負けなし」については、

「道に背き術に違う、然るときは其の負け疑ひ無し」

と言っています。

「道に従わず、術を誤った戦い方をすれば、必ず負けるに違いない」という意味かと思います。

この文章を書こうと思った理由

我が家の息子は2022年2月に中学受験しました。

毎年、4月くらいになると、中学受験の合格体験記が各塾から数多く出されます。

息子の通った塾でも、冊子に纏められ、塾内で配布されました。

「どん底からの奇跡の大逆転」

「努力は決して裏切らない」

「最後まで塾の先生を信じた」

美しい言葉が並び、ドラマチックな話が展開されていますが、読んでいても、どこか綺麗ごとというか、本音が伝わってきません。

あくまでそのケースではそうだったというだけで、状況が異なる他のケースに当てはまるかわかりません。

語られていない他のことが成功の決定的な要因だったりします。

その通りにやってもそうならない(同じことはできない)ので再現性が低いです。

一方、失敗は、その原因を特定し易く、再現性が高いです。

同じ状況で同じことをすれば失敗するだろうと容易に想像がつくからです。

失敗を直視することは時にとても辛いことですが、失敗体験に学び、そこから得られる教訓があるのではないかと思いました。

私は、ビジネスの世界に身を置き、競合他社との競争の中で会社が生き残りを模索する姿を見てきました。

いろいろな事業に手を出して失敗したケースも目にしてきました。

ビジネスにおいて、過去の成功体験に縛られず、失敗に学ぶことがとても重要だと思っています。

物事失敗する場合には、必ずその原因があります。

失敗の原因は何か、どうしたらそれをなくせるかを考えてきました。

私自身が親として経験した中学受験についても同じことがあてはまると考えています。

息子は幸いにも志望校に合格できましたが、合格したからといって、失敗とは無縁だったとは考えていません。

合格に至る過程では数々の失敗があった、と思うからです。

(詳細については、「開成・筑駒合格のリアル」という別の資料でも書いています。)

結果がよかったとしても、その中には何か失敗に繋がる要因があった可能性があり、それを見過ごしてはならないと考えています。

世のなかには、「合格体験記」は数多く出回っていますが、不合格体験記はほとんど目にする機会がありません。

辛い過去を振り返るのは誰でも気が進みませんし、塾にとっても不合格体験は忌避すべきテーマだからです。

中学受験に臨まれる方やこれから検討される方にとって、本当に参考になるのは再現性の低い合格体験ではなく、再現性が高い不合格体験とその分析ではないでしょうか。

少しでも参考になりましたら幸いです。

なお、本文に出てくる、「失敗学」とは、失敗体験に積極的に学ぶことを指します。

機械工学を専門とする工学院大学教授、東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏によって提唱された考え方です。

畑村氏は、2011年、福島原発の事故調査・検証委員会の委員長をされました。

<目次>

・「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」を中学受験におきかえて考える

・失敗学からみた中学受験の敗因分析

<個人に起因する失敗の原因>

①無知

②不注意

③手順の不遵守

④誤判断

 狭い視野
 誤った理解
 誤認知
 状況に対する誤判断

➄検討不足

<家庭(組織)に起因する失敗の原因>

①企画不良

②運営・管理不良

③構成員不良

・時にはネガティブ思考がよいときもある

・中学受験に対する親の前のめり度チェックリスト

・中学受験に失敗する原因 トップ8

・さいごに

参考:失敗事例(12ケース)


本 文

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」を中学受験におきかえて考える

先の静山の言葉を中学受験に置き換えて考えたいと思います。

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