そして、物語は動き出す
房州日日新聞連載作品「真潮の河」。
保田から遂に菱川吉兵衛が青雲の夢を実現させるため、江戸へと旅立った。
浮世絵の元祖として大成する菱川師宣。
このときは、海のものとも山のものとも分からぬ路傍の石に等しい原石。誰の胸の奥にも若い日に抱いていた、夢と希望と野心の塊。生き馬の目を抜く江戸の市井で、たった一人で立ち向かうべく、菱川吉兵衛は旅立った。
この物語は、W主役という枠組みであり、これにて菱川師宣は暫く行間の隙間に深く潜っていく。
もうひとりの主役である醍醐新兵衛には、明日くらいに、紙面にて大きな試練が降りかかる。消し去った筈の彷徨える呪いの果てに、醍醐新兵衛は心身ともに深く傷ついていく。