読まれた方には大盤振る舞いの、表題以外の作品
一冊に2作を詰め込んだおかげで、デカ盛りメニュー並みのお得感を作ってしまった「梅の花の咲く処」。受注生産とのことですが、余剰を刷っているおかげで、まだもう少し、部数がありそうです。
「デカ盛りなら、読むか!」
という方は、お早めに西多摩新聞社HPよりお申込み下さい。こちら、Amazonではお取り扱いしておりません。
本日は、表題作に追加された前日譚である作品「梅かほる闇路」について、ちょこっとだけ触れておこうと思います。
「梅の花の咲く処」が連載されたのは平成16年頃、当時はまだ享徳の乱などという言葉も普及しておらず、戦国時代についても北条早雲時代の関東は掘り下げられていなかった。表題作は三田氏興亡の三年間しか切り取っていないので、作者にフラストレーションがあったのだ。
北条早雲、柴屋軒宗長、日本史に有名なキーワードが三田弾正の歴史に寄り添っていながら打ち捨てていることが勿体なかったのです。で、思い切り50年前に遡って前日譚をスタートさせて、ラストを表題作の冒頭に結び付ける試みを行なった。
「ハリーポッター」ファンにしてみれば「ファンタスティックビースト」みたいにも感じるし、「ガンダム」ファンにとって「THE ORIGIN」みたいな立ち位置という例えがいいのか。
でも、長くお蔵入りしていた。
理由は簡単だ。
時代は歴女全盛期、口を開けば「幸村様」に「政宗様」。地方豪族の戦国黎明期な物語をどうして受け入れてくれようか。単純な理由なのである。
それでもマイナーな時代が脚光を浴びるときが訪れた。峰岸純男先生の研究の賜物。太田道灌も注目された。あっ、「梅かほる闇路」が「梅の花の咲く処」の50年前から描くというキーワードは、太田道灌暗殺から物語が始まるからなのです。
北条早雲こと伊勢宗瑞の解釈も変わりましたね。
以前は、太田道灌と同い年説だったのが、「麒麟が来る」の斎藤道三のように世代がズレる研究に変わった。漫画家ゆうきまさみ先生も取り扱う人物になり、相当な市民権を得た。
ここは手直ししてもパクリやんとされそうなので、従来設定で伊勢宗瑞を描いた。今回、新聞社からは北条早雲表記のこだわりを頂いたが、なんとか伊勢宗瑞に拘らせていただけた。北条改姓の苦慮をする氏綱を描くためには、どうしても伊勢でいて欲しかったのだ。
御岳山を信仰のみならず三田の城塞という設定にしたのは、青梅市発行の書籍による。ここから三田綱秀の妻を迎えるのだが、このあたりは想像によるところ。この正室・妙は、「梅の花の咲く処」では冒頭から死んでいる。この妙がどれほど内助の功を発揮したのかを描きたいから「梅かほる闇路」を書いたという声もある。ズバリ、その通り。
戦国、表の歴史を紡ぐ男なんかより、女のウェイトは果てしなく大きくて、表に出てこないもの。秀吉だって一己の才だけで天下を取れた訳ではないのである。
連載時の北条氏照が、担当された記者のお気に入りだったのですが……。
単行本化にあたり整理されたところもあって、些か御不興だったのは、三田を中心にしたかったのでご勘弁。
あとは、手に取って楽しんで欲しい。
さあ。