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「真潮の河」連載200回記念のふりかえり

房州日日新聞で連載しております「真潮の河」も、6月12日で通算200話となりました。
すでに菱川師宣青年は絵の修行のため、江戸へ旅立ちました。互いの無いものを羨み妬み憎みながらも、いつしか心通わせた友である醍醐新兵衛。
今度会う時は、お互いが胸を張って対するとき。
口にせずとも、二人の胸中にはその誓いがある。
時代は明暦の大火後の江戸時代、世の中は大きく変わろうとしている。

今回は、連載200回記念で、これまでの物語を整理します。

通説上は多々あれど、醍醐の家を里見旧臣と設定した。勝山の領民は里見家が倉吉転封で支配を辞して、漁師として第二の人生を選択する。水軍調練だったクジラ漁をこののちの生活の糧とすることを決めた醍醐新兵衛の父・四郎兵衛。名前は実際のものではなく、創作です。
捕鯨は単独よりも組織がいい。この原型は新兵衛一代では無理があるため、父の代からのものという設定とした。これも創作。本編冒頭は虚実を降り交えて進行します。
旗本内藤家支配の勝山は、後継者が絶えたことにより藩から酒井家飛び地支配に降格。そのなかで陣屋と官民協働で尽力する四郎兵衛が認められ、次第に独自経済の道を模索する勝山。
クジラ漁を脅かす伝説の悪魔と恐れられた黒龍と呼ばれるクジラ。
四郎兵衛夫婦にとって、新兵衛にとっての宿敵。
これを討ち取ったのは新兵衛の功績だが、代わりに四郎兵衛は片足を失う。かくして青年・新兵衛が醍醐の棟梁となり、組織作りのため先頭に立つ。しかし黒龍を討った者が、死してのちは次の黒龍に転生する。この呪いに気付いた柳生家と支配下の信州祢津の渡り巫女が勝山へ赴く。巫女・春菊に心奪われる新兵衛の初恋、やがて二人は夫婦となるが、それさえも幕府を守るために仕組まれた呪いを封じる宿命のひとつだった。やがて、醍醐新兵衛の捕鯨が高く評価され勝山が独立した藩として維持できると判断されると、悲願である復藩が達成された。
ここで陣屋で奔走してきた個性的な役人たちは、すべて創作によるもので実在していないことを白状する。ここまでの物語で、歴史的実在という点と点をつなぐ創作は勿論、市井の人物はほぼ創作であることを認めます。
菱川師宣。
この人物の若き頃の土地の事跡は残されておらず、よって、醍醐新兵衛と対極の存在とした。似ていない者同士の反発が大きいゆえ、長じて互いを認め合うことになった。

そして、現在。
醍醐新兵衛は心身ともに追いつめられていた。

第8話「棟梁の重さ」。
親孝行として、良かれと思い、新兵衛は両親を太地へと送り出す。よきたびになればという、本当に、細やかな気持ち。

それが。

両親の死は事故ではない。送り出した己の罪。そのことで苛む精神、そして醍醐の棟梁としての立場は休むことを許さない。呪いを断ち切った筈なのに再び姿を現わした黒龍。新兵衛の知らぬところで、これの対応が迫られた。新兵衛は落ち込む暇さえも得られない。
人間として、こんな極限は生き地獄といえる。

ここから立ち直り、這い上がっていく新兵衛。
どうなる、新兵衛。
この先も「真潮の河」は、これまで以上に史実の部分を色濃くしていきながら、醍醐組を確立させる第一部の完了まで進みます。
第二部以降は、江戸時代中期の天災や経済やバブル崩壊までを描いていく。
こうご期待。