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嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五の歌~

《奥山がふられよった》 原作:猿丸大夫 
そらま、ふられるわな
おまえみたいなガシンタレに秋ちゃんは似合わん。
哀しかったら泣いたらええやんか。
そうや、そうそう、泣き疲れて腹がへったら、それが生きてるショウコや。
一緒に鹿肉の煮込み食おうやないか。
おっと、その紅葉おろしはわしの分や。とったら、あかん。

(注)ガシンタレ=意気地なし。能なし。甲斐性なし。

定家 「猿丸はんていったい誰やろね?」
蓮生 「さぁな、猿丸はんの歌は元はみんな詠み人知らずやさかいな」
定家 「表にお名前が出されない、出してはいけないお方の歌やさかい、詠み人知らず。けど、その詠み人知らずの歌を束ねると或るお方が見えてくるんとちゃうやろか」
蓮生 「ほんならやってみよか。最初は、奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき。恋しい人を探して心の奥山に迷った時に聞こえたあの人の声。秋、哀しい追憶の歌や」
定家 「をちこちの たづきもしらぬ 山中に おぼつかなくも 呼子鳥かな。心の奥山に深く迷い込んで呼び続けるのは恋しい貴方の名前。春、ただひたすらな追慕の歌やね」
蓮生 「最後は、石ばしる滝なくもがな桜花手折りても来む見ぬ人のため。この日、この時、この場所で一緒に桜を見ることができない貴方に美しい対岸の桜を手折って持ってゆきたい。けれども、瀬の流れが速すぎて渡れない。渡せない切ない想いの歌」
定家 「三つの歌を合わせると思った通り或る方の面影が浮かぶな。それは後に帝となられた安倍内親王、その人や。帝は御簾の影で遥かな地に流された人を慕い続けておられたに違いない」
                                                                                                  To be continued




 


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