嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~二十八の歌~
《し・あ・わ・せ》 原作:源宗于朝臣
「う~っ、寒!こりゃ午後から雪やなぁ。」
手もみして家に戻る。
……うちにはな、囲炉裏があるんやで。ええやろ。
ちょっとだけ自慢なんや。裏庭から枯れ枝を集めてきて、ちょちょと燃やす。自在鉤にかけてある鉄瓶が暖まったら、熱燗や。
アテ(酒の肴)は山女魚の干したんと赤い熾(お)き火。
ええんよ、一人で。じっと火ぃ見つめて自分と話すんや。
(注)自在鉤(じざいかぎ):囲炉裏の上につるし、それにかけた鍋、釜、鉄びんなどの高さを自由に上げ下げできるようにした鉤。
定家「山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば。 えらい寒さや」
蓮生「せやな、山里の暮らしは、いつの季節でもさびしいけれど、冬はことにさびしさが身にしみて感じられるわなあ。来る人もおらんし、草木も枯れはててるしな」
定家「けど、独り、囲炉裏に熱燗はええな。絵になる。猫もおる」
蓮生「自分と話し疲れたら、ごろり手枕やな」
定家「その間に山女魚の干物、猫にとられるで」
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