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《露を命にて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~七十五の歌~

《露を命にて》原作:藤原基俊
恋という言葉は貴方を苦しめる。
そんなことわかってる。
一夜の契りは茨の露。
したたる血潮、その痛みも甘くせつない。
あはれな秋に言寄す。
<承前七十四の歌>
その時、東の対屋の向こうの空が赤黒く染まった。
「あれは?」
式子がそれを指差し定家に問う。
「群盗共の焼き討ちやもしれませぬ」
「怖い」
式子の身体が震えた。
「大丈夫でございます。この屋敷は宇都宮蓮生殿の手勢に護られておりまする。群盗も蓮生殿の軍勢にはかないませぬ」
定家は式子の首筋に唇を這わせた。
「うっ……」
式子の頤がのけぞる。
閉じられた眼に苦悶の表情が浮かんだ。
「契りおきし させもが露を 命にてあはれ 今年の 秋もいぬめり。定家様、お言葉を下さいませ。式子はそれを命のように大切にして生きてまいります」
<後続七十六の歌> 

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