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嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~十二の歌~

《Cast a Spell.》 原作:僧正遍昭
「今日のお稽古はこれまでどすか」
男を誘うとろりとした声音の女。匂い立つ艶めかしいうなじに昂ぶりが天を衝く。たった今、おまえを攫い、秘め籠めたい……。抑えきれないその狂気。呪吟を与えよう、今ここで。
―裏比叡に十六夜の月乱れて天空に喘ぎ乙女雲は風神に契られ忘我に飛ぶ―
……今夜は帰さん。

(注)Cast a Spell=呪文をかける。裏比叡=八瀬(やせ)地方。表の比叡山延暦寺に対して裏比叡と呼ばれる。京都の鬼門にあたる影の地帯。乙女雲=女人の肢体に似た雲。

定家 「ちょっと危ないんちゃうか、この場面は? ええ女はどないしても男を蠱惑するさかいな」
蓮生 「ほんまや。ええ女は居るだけで罪やな」
定家 「罰を受けるんは女の魅力に耽り溺れる男の方やろけどな。天つ雲 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ」
蓮生 「けど、わしらにはそんなええ女居らへん。いっつも定家はん
と二人きりや。おかしいんとちゃう?」
定家 「ほんなら、今夜は古今のエエ女探してお酒飲みまひょか」
 

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