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昨今のモバイルオーディオ機器について考える


本稿では、モバイルオーディオ機器に関して、とりわけ出力音質、入力音質についても記していく。

今回、本稿を思い立ったのにはwithコロナ以降、試行錯誤を重ねてきた自身の経験が元にある。

現代のオーディオ機器の用途は多岐にわたる。
ここでは私の経験に一番近い一般的なビジネス/スタディユースで活用する人々に絞って考えたい。

モバイルオーディオ機器のニーズについて

モバイルオーディオ機器が必要な機器とは?

多くの人が個人用携帯端末を持ち、ビジネス用のノートPC、またはiPad(or mini)等を駆使しているかも。
社外との取引を多く行うビジネスマンは、ビジネス専用の携帯端末も併せてもっていることもある。

こうしてみると、我々はここ十数年のうちに携帯1~2台にiPadにノートPCなど、多くのデバイスを持ち歩く機会が増えたように思う。単純に時代の変化により、ビジネスユースでの連絡ツールはポケベルから携帯電話へとシフトし、モバイルPCを持つようになった。

Withコロナによるリモートワークへの舵切りでオフィスに備え付けのデスクトップPCはモバイルPCへ転換した企業もあると思う。一方でPostコロナの動きの一つとして、完全リモートワークから週2出社要請を行う企業も増えている。必然的に、電子機器の持ち歩きが増えているのでは?と感じる。

PC市場動向から見えるもの

法人向けPCの市場動向のニュースによると、コロナ禍以降のPC調達方向性のアンケートにて、ノートPCの調達ニーズはもちろん多いものの、"web会議増加によるwebカメラや音響性能を意識するようになった"との回答が一位であったというのも印象深い。
コロナ禍の3年間で何が変わった? 法人向けPC市場を取り巻く環境の現在と未来 NTT Com、インテル、HPが語る - ITmedia NEWS

その他の可能性

生成AIの進化も著しい。多くの作業がキーボード入力から、音声入力にシフトする可能性がある。対話しながら、人の意図をくみ取り、実行し報告するといった一連の業務を、見える化した資料を閲覧しながら、人間とAIが対話しすべて音声のやり取りで行われる。
指示を送る端末によっては、さらに親機が増える事になる可能性もある。

1「AIが人の仕事を奪う」とか、2「AIを使いこなす」とか言われているが、当面の間、本質的に目指しているのは上記のようなAIアシスタント→AI部下への方向性だと思う。つまり、1も2もある意味では正しい。AIが従順な部下になるイメージである。

これらを鑑みるにオーディオ機器に関して、更なる進化が求められているのでは?と考える。
ここからは、本題であるオーディオ機器について考察していこうと思う。

オーディオ機器の分類と特徴

接続方法の種類と機能

古典的な手法として有線接続がある。これは使用したい端末に直接3.5mmジャックを差し込むという至極単純な方法なので、説明は不要と思う。
最近では、Bluetoothを活用した子機が増えている。1つのBluetooth子機を複数の親機で使おうとすると、いちいちBluetooth子機側で接続親機を変更しなければならない。この際に重要となる機能に、自動ペアリング機能、マルチペアリング機能と、マルチポイント機能の3つがある。それぞれの機能について端的に説明する。

  • 自動ペアリング機能:親機と一度ペアリングを行えば、次回から電源をONにするだけで自動で接続してくれる機能。多くは最後に接続した親機と優先的に接続される。

  • マルチペアリング機能:1つの子機と複数の親機を接続できる機能。複数親機と同時接続はできないが、毎回新規にペアリング設定をしなくて良いというメリットがある。

  • マルチポイント機能:同じプロファイルの親機を同時に複数接続可能にする機能。例えば、携帯電話が2台あって、どちらかに着信があった際に、2つの携帯電話と同時接続しておけば、切り替えを行う事なくどちらの電話も1つの子機で対応が可能。

キーボードやマウスなどのガジェットにおいては、ワンボタンで登録1,2,3を切り替えたりとマルチペアリング機能さえあれば十分に感じるものの、これがオーディオ機器となるとそうもいかない。音は出るまで気が付けないし、マイクは自分の声が届いているのかわからない。また、複数親機で1つの子機を使う事が普通となると、自動ペアリングで接続終わったと勘違いし、会議で音声が届かないなどのトラブルも生じやすい。そのため、その時どんな設定になっているのかを気にせずに使用できるマルチポイント機能の重要性は高まる一方だと思う。
 また、Bluetoothイヤホン装着時にZoom会議を行うと音声が届かず焦った経験がある方もいるのではないだろうか。1つの可能性として、スピーカーに、"イヤホンのステレオ"を選択しており、イヤホンマイクが使用不可となっていることがある。この仕組みについては後述の「Bluetoothイヤホンのマイクの詳細」にて触れる。

マルチポイント機能については、技術的な課題があるのか2台同時は増えてきたものの、3台同時接続できる機器は私の知る限り、今年の6月に発売されたTechincsのイヤホン(EAH-AZ80、EAH-AZ60M2)が初めてである。今後の各社の開発に期待したい。

イヤホン、スピーカーについて

出力/入力の課題について考える際、周囲環境を考える必要がある。接続方法の項ではBluetoothについて触れたが、実際にはPC本体にもスピーカーやマイクは内臓されているし、有線の小型スピーカーを使用することもあれば、Bluetooth機器の場合もある。

ビジネスやスタディに限った話で言えば、実のところ出力音質についてはこれ以上精度があがる必要が無いと考えている。もちろん、安価なBluetooth機器では音質の悪いものもあるが、Ankerなどをはじめ比較的安価なBluetoothイヤホン市場においても一定水準の音質が担保されてきている。最近ではノートPCのスピーカーも大幅に改善されている。あとは、周囲環境によってスピーカーで流すか、自分だけが聞こえるイヤホン(ヘッドホン)を装着するかを選べばいい。

マイクは難しい


一方、マイク入力については、音声出力と比べると用途による使い分けが困難で課題も多い。
ビジネス用途で使用するマイクにおいては、下記ポイントを用途ごとに使い分けるのが良いだろう。

〈マイクの種類〉
"コンデンサマイク"、"ヘッドセットマイク"、"ラベリアマイク"、"ダイナミックマイク"

〈マイクの指向性〉
"単一指向性"と"無指向性"

詳しいコトは、島村楽器のページが非常によくまとまっている。Beforeコロナ時代には詳しい解説ページは少なく苦労した。
意外と知らないマイクの基本知識&用途別の選び方 徹底解説!|島村楽器 名古屋パルコ店 (shimamura.co.jp)

  • コンデンサマイク:個室など他の人との距離が保てる場所が確保できて、周囲の雑音が少ない環境では有線の単一指向性のコンデンサマイクが、一番会議をしている相手にとって聞き心地の良い音質を届けることができる。一方で周囲の騒音が大きい場合、拾ってしまう事がある。

  • 会議用のスピーカーマイク:これは複数の人が会議室に集まって使う用途のものだが、自分の声だけを拾うにも適している。無指向性で部屋の中の音ならほとんど拾えるので、多少動き回っても声が届くからだ。Bluetooth機能をもつものが殆どだが、音質を考えると接続は有線のほうがベター。但し、離れたキッチンの音などが入ったりするリスクもあり周囲環境には留意する。

  • 有線イヤホンマイク:会議で一番よく目にするのがこれ。イヤホンマイクの殆どは、無指向性マイクでありラベリアマイクに近い。ただし、標準搭載されているものの多くは狭い周囲の音しか拾わない為、イヤホンのずれただけで声が小さくなるなどのリスクがある。マイク音質については、Apple純正のEarPods(3.5mm Plug)は私の周囲では定評がある。

  • ヘッドセット:ヘッドセットにはゲーム用、会議用とあるがいずれもマイク音質は良好な傾向。また、ブームマイクのため、マイクの位置によって音の大きさが変わりづらい点はメリット。ヘッドセットによって無指向性、単一指向性といずれも存在するので注意が必要だ。一概に無指向性が悪いわけではないが比較的周囲音を拾いやすい。デメリットは長時間装着していると痛かったりすること。快適さを求めると値段が高額になりがち、カメラ映りを気にする人はヘッドセットのデザインも気になるかもしれない。こちらも、有線と無線で音質に差はあるものの、高額商品ではマイクの音質も高い。

  • ガンマイク:コンデンサマイクよりも焦点を絞った音を拾いたい、且つ音質を担保したい場合、ガンマイクをPCに装着するのも一つの手である。本来は屋外で対象の音や声をピンポイントで拾うために使われるマイク故に優秀だ。一般向けではない為、高額な商品が目立つ。

  • Bluetoothイヤホン:正直に言って、まだマイク音質としてみると未成熟である。PCなどの親機から離れる事が出来るなどのベネフィットが著しく大きい為、本当に発展してほしいところである。ワイヤレスヘッドセットももちろん同じ。

Bluetoothイヤホンのマイクの詳細

ここで、一番進化が期待されるBluetoothイヤホンについて触れたいと思う。
Bluetoothイヤホン、ヘッドセットのマイク音質向上には、ボトルネックが存在する。
Bluetoothの音声伝送には、ステレオ単方向通信のA2DPと、モノラルの双方向通信のHFP/HSP(ハンズフリープロファイル、ヘッドセットプロファイル)機能が存在し、会議音を聞きながら、マイクから音声入力するためには、HFP/HSPで動作する必要がある。zoomなどではスピーカーでもマイクでも"Hands-Free"を選択する必要があるのはそのためだ。ステレオを選択した時点でイヤホンのマイク機能は失われる。聞くだけならステレオのほうが音質が良いが、イヤホンをマイクとしても使おうとすると聞いてる音質も下がってマイクの音質もいまいち・・となるとちょっと悲しい。
HFP/HSPによるマイク音質の制限や、今後についてはこちらの記事を参照されたい。
通話用Bluetooth ヘッドセットはどんなものがおすすめ? - hikkie (hatenablog.jp)

次世代のプロファイルとしては、Qualcommの「Snapdragon Sound」対応、次世代Bluetoothオーディオ企画である「LE Audio」規格などがマイク音質向上のカギとなるだろう。

Buletoothイヤホンのマイクは無指向性が主流だが、ブームマイクがついていない(口との距離が遠い)為、比較的周囲音を拾いやすい設計となっている。この音質を挙げるための努力は著しく、マイクを複数つけてノイズキャンセリングや収音音声信号を解析改変して音質向上や周囲音の除去に努めている。そのため、現在のBluetoothプロファイルに従うとマイク音質の良さ=価格の高さに直結してしまうのがデメリットとなる。

また、現在ようやくLE Audio対応のBuletoothイヤホン、携帯端末も登場し始めている。来年~2025年あたりまで待てば多くのデバイスが対応してくるだろう。一方で、AppleはLE Audio対応については現時点では明言しておらず、当面はAndroid端末が主となる可能性がある上、Zoom会議などで活躍するOS(Windows,Mac)がいつ対応するのかが問題の一つといえる。
【藤本健のDigital Audio Laboratory】次世代Bluetooth「LE Audio」で何が変わる? ソニーキーマンに聞いた-AV Watch (impress.co.jp)

マイク編(おまけ)

そういえば一つだけ高音質のワイヤレスマイクがある。2.4GHzのデジタル無線のラベリアマイクだ。よくYoutuberが使用しているもので個人所有で考えると高額になるが、ワイヤレス+音質を選ぶなら現時点の候補はこちら一択かな?と思う。中でもRODEのWireless Goが有名だ。もちろん、マイク機能のみ。業務で何か音声収録するくらい使い倒さないとちょっと元は取れない気がする。当然マルチポイントなんてものはない。Youtuberやる人にはおすすめ。

(あとから追記8/12)

どうしてもcafeなどの喧噪なスペースで会議に参加しなければならないシーンがあるのを思い出したので追記したい。

この場合のneedsは、
 〇マイクから自分の声だけをクリアに拾って欲しい。
 〇会議で相手の会話を、騒音に悩まされずに聞き取りたい。
の2点に集約すると思う。この場合、選択肢はほとんど無いが、できればオーバーイヤー型のノイキャン機能付きヘッドホン一択かなと思う。ブームマイクが付いてれば尚良しだが、高度なノイズキャンセリング機能がついてる製品は、マイクから拾った音声のキャンセルも期待でき、無理してブームマイクにこだわる必要はないかと思う。
 私の経験としては、次のアポイントの関係でスタバで鞄にあったカナル式のイヤホンにブームマイクを付けて会議に参加したことがある。その際、自身の声はちゃんと伝わっているものの、相手の声が回りの騒音と混じって集中が難しかった。公共交通機関(電車/バス/飛行機)などで利用する為の、高性能なノイキャン機能付きワイヤレスヘッドホンを一つ手元に置いておくのも良いなと思う。AnkerのQシリーズなどかなり手頃で良いのではないだろうか。

まとめ

ちょっと沼にハマりそうなので、なかば無理やりまとめに入るが、ここで一つの結論に入りたいと思う。

昨今のビジネスやライフスタイルの変化に伴い、私たちの"持ち歩くオーディオ機器"に対するニーズも日々変化している。
最近では、音楽を聴く用途以外にも、携帯を鞄に入れたまま通話したり、オンライン会議にワイヤレスイヤホンなどで参加したりと、多くの親機に対して、子機を使い倒す傾向にある。
オーディオ機器にはそれぞれ異なる性質があり、特にマイクについては自身が入力された音声を聞く機会にない上、講演をする人、プレゼンをする人、商談をする人など音質に注意を払いたいというニーズは多いように思う。ブームマイクが付いてれば高音質でしょ!と安易に考える人もいるが、それは大きな間違いで接続方法、マイクの種類、指向性によって相手への伝わり方は大きく異なる。

音質を中心に考えるのであれば、まず有線。無線である場合は、プロファイルに注意が必要である。その上で、ブームマイクであったりとか、コンデンサマイクなのか、指向性はどうなのか。マイクそのものの性能はどうなのかという点を気にしていくのが良い。

個人的には、Bluetoothイヤホンのマイク音質向上および、マルチポイントの対応台数の向上の2点が、今後期待したい点である。次世代プロファイルであるLE Audio対応かつマルチポイントの少なくとも3台できれば4台のイヤホンが発売したらいいなと思う。メーカー様お願いします! 以上

蛇足

(今どんな使い方をしているのか):いまはBluetoothイヤホンのマイクについて、電話応対程度であれば気にしていないものの、取引先との商談では使用を避けている。実際、個室であればコンデンサマイクを外付けているし、周りに人がいれば有線ヘッドセットを用いるようにしている。場合によってはマイクだけコンデンサを用いて、音声だけBluetoothイヤホンでA2DP(ステレオ)音質で参加するようなこともある。(結構便利) Bluetoothイヤホンはマルチポイント2台使えるものを使用しているし、コンデンサマイクも机に備え付けている。

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