論語 陽貨24 嘘つきの本音とその後

 子貢がたずねた。「君子もやはり憎むことがあるますか」。先生は言われた。「憎むことがある。人の悪いところを言いたてる者を憎む。下位にいて上位者を非難する者を憎む。勇気はあるが礼儀を知らない者を憎む。果敢だが閉鎖的な者を憎む」。(また)言われた。「賜(子貢の本名、端木賜)もやはり憎むことがあるか」。
(子貢は言った。)「人の知恵をかすめ取って、自分の知恵のような顔をする者を憎みます。傲慢不遜を勇気だと思う者を憎みます。あばきたてることを正直だと思う者を憎みます」。

井波律子(訳)(2016)『完訳 論語』 岩波書店

 孔子の憎む者は分かりやすい。一言で言えば立場をわきまえず、感情に振り回されている者と表現できるだろうか。上位者、下位者が具体的に何を示すのか分からないが、上位、下位という言葉が位置や順番、立場の上下を表すものであることから考えると上下関係と見ることが出来る。
 上位者が道徳を貫いている事は当然として、力が無いのに悪口を言う者を批判しているのだろう。だとすれば、まず批判するべきは、まとめる力が無いのに上位の存在にいる人物だと私は思う。当時の上位の人々がどうだったのかは定かではないが。
 全体を把握して指示を出せる立場に、意見を言う事はあっても無駄に非難する事は建設的ではないのは確かである。

 勇気がある者、果敢である者も性格的に動いているだけで、勉強によってその身の振り方を制限できなければただの無礼者、頑固者に成り下がる。

 それに対し子貢の憎む者は狡猾さを兼ね備えている。表面上は知恵者であり、勇猛果敢であり、正直者であるという評価を受ける事もあるかも知れない。だが、追及するとただ暗記が得意なだけの者、他人の迷惑を気にかけない者、噂好きで下品な者であるという事が分かるだろう。
 本当に知恵者なのかどうかは、言っている事意外での評価や判断が必要になってくる。他人から言葉を借りるのは悪い事ではないが、自身で勉強し実感出来なければ、得意げになっているだけである。少なくとも、誰かの言葉を使うなら正確に、そして出典を示すことは気にかける必要があるという事だろう。

 ただ、私としては言葉なんぞ誰がどんな形で話しても構わないと思うし、いちいち誰からの言葉なのかを記憶する必要も感じていないので、その言葉だけで良し悪しを判断することはあまりない。
 どんな言葉かだけではなく、誰が喋っているのかという事でセットで考えるようにしているので、同じ言葉でも人によって意味が違うのである。正確に言うと意味は同じであるが、価値というか、重みというか。相手にするかどうかと言い換えられるだろうか。

 童話のオオカミ少年に近い。嘘つきの言っている事が本当だとしても相手にしないのは仕方のないことだ。そして彼の存在が村の安全を脅かす事、そんな人間は排斥される可能性が高いという事だ。

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