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グラジオラスの花束

 ブレナン様、今年もグラジオラスが咲きました。
 天に向かって真っ直ぐに伸び、凛と花をつける様は、あなたの立ち姿を思い出させます。
 思えばあなたと初めてお会いした時も、あなたのしゃんと伸びた逞しい背中が頼もしく思えたものでした。
 あなた方があのヴァンパイアを討ち倒してくださるまで、この領地はひどい場所でした。ヴァンパイアの欲望のままに、荒らされ踏み躙られ、花の一輪も満足に咲くことができませんでした。
 あの時、あなたは私に、どんな領地を作りたいかと問いましたね。私が語った理想郷のような領地の夢を、あなたは笑わずに共に作りたいと申し出てくださいました。私のリライターとしての在り方が定まったのは、まさにその時だったのでしょう。全身の血が沸き立ち、あなたのためなら私の命を、一生を、捧げたいとまで強く感じました。
 あなたを愛することこそ私の人生だと、確信したのです。
 ヴァンパイアからこの領地を勝ち取ってくださったあなたは、ひどい傷を負っているにも関わらず、私の身を案じ、お仲間の騎士様方と別れてまで領地の建て直しを手伝ってくださいました。
 この領地の在り方は私の在り方と同じ。平和を愛し、花を愛し、そしてなによりあなたを愛する、平和で穏やかな領地となりました。
 小さな家であなたとふたり、庭にはあなたが選んだグラジオラスと私の好きな百合を植えて、過ごした日々の愛しかったこと。今でも瞼の裏に鮮やかに浮かびます。
 あなたがこの領地に残り、共に生きると決めた時から終わりの日が来ることはわかっていたはずなのに、あの朝、あなたの体に触れた時、血の引くような思いをしました。あなたを失ってしまう。それは耐え難い恐怖でした。
 あなたに縁深い騎士様方を呼び寄せたとあなたの告白を聞いて、ジャック様ともお話をし、いよいよなのだと不思議と冷静に受け止める一方、前領主のヴァンパイアを討ったあの広場であなたと相対してもなお、あなたを失う覚悟などできませんでした。
 あなたが目の前で変容を遂げ、震える手であなたからもらった銃を握りしめた時、あなたの声が聞こえた気がしました。

 ーー焦るな。相手をよく見るんだ。

 ええ、そうですね。私の戦い方は全てあなたに教わったもの。あなた亡き後も身を、そして領地を守れるようにあなたが私に遺したもの。
 深呼吸をして、あなたの教えを思い浮かべれば、自然と震えは止まりました。
 あなたがそれを望むなら、あなたに撃ち込むこの弾丸は私からの愛になるのです。
 引き金を引いて、弾丸が真っ直ぐにあなたを捉えた時、虚だったあなたの目は私を真っ直ぐに捉え、微かにあなたが頷くのが見えました。
 幾度となく撃ち込む弾丸は、あなたの命を、魂の在り方を削り、私の弾丸であなたは倒れました。
 さようなら、ブレナン様。愛しいあなた。
 あなたを終わらせた、あなたにもらった銃を抱き締めたまま、私はその場に崩れ落ちました。
 ジャック様の言葉にも、グスタフ様の挨拶にも返事のできぬまま、あなたを失った悲しみに動けないままでおりました。
 私の生きる意味。それはあなたを愛すること。あなたを愛し続けること。あなたが共に作り上げ、愛してくれたこの領地を命の限り守り繁栄させること。あなたの偉業を語り継ぐこと。それだけが私の命をあなた亡き世界に繋ぎ止めてくれるのです。
 あなたは最期まで美しい騎士でした。誇り高い騎士でした。私が憧れ、愛した人でした。
 愛してる。あなたがようやく最期にくれたそのひと言だけで、私は生きていけるのです。

 ブレナン様、一緒に植えたグラジオラスを覚えていらっしゃいますか。今でも庭ではグラジオラスと百合が寄り添い合うように咲いています。
 そして、あなたが散ったあの場所には白いグラジオラスを植えました。常勝の騎士ブレナン・アラギリここに眠る。そう刻まれた碑を囲むグラジオラスはどこか誇らしげで愛らしさを感じます。
 あなたは最期まで勝ち続けた騎士様ですもの。あの最期さえ、あなたの勝ちでございましたね。
 グラジオラスの花の世話をする時、私の胸は懐かしさでいっぱいになり、涙が溢れそうになることもございます。そんな時、決まってあなたの優しい声が思い出されるのです。
 ブレナン様、あなたのいない世界はこんなに寂しいのに、あなたのいた世界だからこそ美しく、愛おしく思えてたまりません。
 愛しています、ブレナン様。この命尽きるまで私はあなたのものです。

フローラ


この手紙風SSは『ブラドリウム 世界にとどめを刺すRPG』の公式シナリオ『傍らに星、託すは炎』のプレイ後、配役4から配役1にあてた手紙という形でキャラクターのその後のエピソードとして制作したものです。
ヘッダーイラストはしまうま様作。

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