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一首感想

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一首評というのもおこがましく、ただただ好きな短歌について話したいと思っています。
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2024年5月の記事一覧

一首感想『サイダーの泡を残してこの夏は人魚のように消え去ってゆく』

読後の爽やかさと切なさの共存がとても印象的な歌だと思った。伊波真人さんの歌は独特の雰囲気がある。

サイダーの清涼感と、人魚から連想される海の涼しさに爽やかな夏を思い起こされる。海へ行きサイダーを飲む夏は夏の王道だと思う。泡を残してという言葉から砂浜に押し寄せた波の作った泡のようなイメージも連想される。消え去っていく様子が人魚のようだという文脈は理解した上で人魚、夏という言葉が並ぶことから夏に海を

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一首感想『ライターのどこかに炎は隠されて君は何回でも見つけ出す』

この本の前後の文脈からおそらく恋愛の歌なんだろうと思う。それも少し冷められているのか、都合良く扱われてしまっているのか。タバコを吸う彼がライターをつけるような情景が思い浮かぶ。彼がライターの火をつける仕草は手慣れていて、普段からライターを使っていることが伺える。

ライターが何の比喩なのかを考えつつ妄想する。
私の心であるならば、君は、君のどこが好きなんだろうと思うような私の冷めた心の奥に眠る君を

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一首感想『星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ』

一目見た時、すごく青春の輝きを感じる歌だと思った。

夏に向かう季節の中で読んだからか、夏の夜の星空を想像した。この歌が含まれる連作の題が「夏へ旅立て」であることも鑑みて、ここからは夏の歌という妄想で書き連ねます。

上の句は夏の青春アニメみたいで懐かしいような切ないような気持ちになる。夏休みの旅行での最終日の夜、みんなでバーベキューしたり花火をしたりとひとしきり楽しんだあとに、地面に横並びに座っ

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一首感想『滝と宴を同じテーブルに寄せ合ってきみが忘れてゆく夜にいる』

夜の歌が好きだ。自分もよく夜を歌に読み込んでしまうし、人の歌に出てくる夜を想像するのが好きだ。自分の今の興味のあるテーマなのかもしれない。

滝と宴は全く異なるようで実はその特徴は綺麗に対比があることに気付かされる。
自然のもの/人工的なもの、流動的なもの/皆がその場にとどまることで成立するもの、恒久のもの/一時的なもの、と相反する要素を持っている。
同じテーブルにのせるということはその二項対立の

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