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2月、3月の読書

このところの寒さのぶり返しで、桜の開花が予想より遅れているようだ。
3月も残すところ1週間になり、新たな社会に船出しようとしている若者たちは最後の休みを楽しんでいるだろう。

2月に読んだ本

偶然、2月の読書は歴史物ばかりになった。
「まいまいつぶり」で村木嵐という作家を知り、松本清張賞を取ったという「マルガリータ」を読んでみた。天正遺欧少年使節団として派遣された
11歳から14歳までの少年たちが8年後に帰国した後の様子を描いたものだ。
キリシタンへの迫害や殉教に触れたもので、読んでいて心安らぐものではない。現在に至るまで延々と続く宗教絡みの諍いに、日本人の持つ
アミニズム感覚に軍配をあげたい。

門井慶喜の本は好きだ。能登地震が起きて間もない時期にこの本を読むのは、憚られる気持ちも動いたが、過去の天災に日本人はどのように対処してきたのか知りたいと思った。
近世に起きた6つの天災について語られる。それぞれにまったく違うタイプの天災だが、中でも身近に感じられたのは1707年(宝永4年)に起きた
富士山の大噴火の話だ。それから300年以上経つ現在、富士山の噴火の
可能性が語られている。宝永年間の噴火の際にはそれを遡ること49日前に、日本列島をマグニチュード8.4と言われる大地震が襲い、富士山噴火はこの大地震に刺激されて起きたと言われるらしい。
この頃にも幕府の「お救い金」というものが支給された土地が
あったという。もっともそれは「富士講」と呼ばれる登拝が流行し始め、
登山道や、宿坊の復活のために支給されたもので、1里と離れていない村では救済の手は差し伸べられず、わずかな麦を分け合って糊口を凌いだということだ。

アルハンブラ物語は読了するのに苦労した。翻訳物は苦手だ。
その上、1800年台の記録を1900年代になって著したもので、注釈が多い。20年以上前に訪れたトレドやセビリアのことを思い出すよすがとして読み始めた。
下巻は主に、アルハンブラ宮殿にまつわる伝承を著しており、
スケールは違うものの、柳田國男の「遠野物語」を連想した。遠野物語が佐々木喜善が祖父から聞いた話として柳田に語った話を元に著しているのと同じく、アルハンブラ・・・もガイド役のモーロ人の少年が祖父から聞いた話として著者に語ったものだ。
レコンキスタによって、キリスト教に支配が変わったわけだが、本を読む限りは、そこに住まいする庶民であるモーロ人(ムーア人)は
日本でのキリスト信者迫害のような処罰もなく、自分たちの生活を守っていたように思える。
図書館の貸し出し期限の2週間では読みきれず、1週間延長してようやく読み終えた。

3月の読書

3月は永井路子の本以外は、現代の小説だ。そしてそれらは家族や老後について考えさせられる小説だった。
「照子と瑠衣」は70代に入った女性二人の冒険小説のような話だが、
70代に入っても、まだまだ可能性はどこにでも潜んでいると
思わせてくれるおとぎ話みたいだ。

「赤へ」は照子と・・を読んで、井上荒野をもう少し読んでみたいと選んだものだが、死もしくは死を匂わせる短編を集めたものだ。
「死」が近くにあるという潜在意識がもたらす言葉や行動を捉えていて、
「なるほど、こうはなりたくない!」と思うが、こればかりなってみないと分からない。・・・ということは現在の自分はそんな事ないと思っているということだが、果たして・・。

「東家の四人の兄弟」はそれぞれ性格の違う四人の男兄弟と、どっしりと構える父親、明るく前向きで少しの霊感を持つ母親が織りなす家族模様を
描いたものだ。それぞれに悩みや問題を抱えつつも最後はハッピーエンドの気持ちの良い小説だ。

図書館の書架に、永井路子の「望みしは何ぞ」を見つけ、パラパラとめくってみると、どうやら藤原氏について書かれているようだと思い、
借り出した。
藤原道長の高松家方の妻明子との間にできた六人の子供のうちの三男能信
によって語られる藤原家栄華に至る物語だ。
道長には鷹司家方から嫁いだ妻倫子がおり、大河ドラマ
「光る君へ」で黒木華が演じている。こちらには五人の子供がおり、五人のうち一人だけ男子だ。明子に比べて倫子は明るく才長けていたようだ。
いかにして少しでも天皇の地位に近づけるかと権謀術策に心を砕く様子や、男子が生まれるか女子が生まれるかと気を揉む側近たち。
女子出産という運にも恵まれたが、周囲を包み込むような道長の人柄も
あって、(磯田道史さんの歴史番組でも、道長は決して傲慢なやり手という感じではなかったという話をしていた)「一家立三皇」と呼ばれる栄華を確立し有名な
「この世をば 我が世とぞ思う望月の 欠けたることも無しと思えば」
と思わず読んでしまうほどの権勢を誇った。・・・という話が微に入り細に入り続き、少々うんざりしながら読了した。




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