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創作怪談

【公園の砂場】
週末。会社の飲み会の帰り道に駅までの近道にという事で公園を横切ることにした。駅に向かうメンバーは私を含む同期4人と先輩が一人。
この先輩というのが途轍もなく嫌われ者で、めんどくさい人物だ。
後輩や立場が下の者や見下してる人物には周りにバレない様にちょっとずつパワハラ、モラハラ、セクハラを行う。機嫌が悪いと当たり散らす。
後輩同士で飲み会を行うとどこから聞きつけたのかやってきて散々飲み食いして、一銭も払わずに帰る。
そのうえ自分より立場が強い者、上司先輩にはへりくだる対応は当たり前。年下であってもはっきりモノを言い返したり気が強い人には上記のようなハラスメントは行わない。なんなら近寄らないようにしている。
そんな人間だ。

なにかしら話してる先輩の声を生返事しながら公園を歩いていると「お!!」と先輩が駆けだした。急な行動にびっくりしていると砂場で立ち止まり何かを拾うとこちらに小走りで戻ってきて「見てみろよ」と自慢げに先ほど拾ったであろう手の平のものを見せてきた。
布製のお守りだった。見るからに手作りの。糸で何か祈願を縫い付けていたのであろうがほつれており、もう何かわからないが。
「こういうのって中に金が入ってたりするんだよな」そう言って嫌な笑顔でそれを開いて中身を取り出そうとしている。発言から今回が初めてではないのだろう。
さすがに止める様に注意しようとしたが遅かった。逆さまになったお守りの中身がポロリと先輩の手の平に落ちてくる。毛がリング状に編み込まれたもの。一瞬で分かった。人毛だ。小指になら入るだろうか。
そんな考えが出来る程に固まって動けなかった。皆。
「うわぁっ!」先輩が悲鳴を上げてそれを投げ捨てた。
後輩の視線に気づき、虚勢を張っているのが一目で分かるように「おい!何見てんだよ!さっさと帰るぞ!」
空になったお守りを投げ捨てて両の手の平を自分のズボンに擦りつけると早足で私たちを置いて歩いていく。
私達は距離を置いてからその後に続いた。

公園での一件があった日の翌週から日常も仕事もいつも通りに始まった。
少し変わったのは先輩が来なくなり、職場は少し快適になった。
更に翌週。無断欠勤を続けていた先輩が亡くなった。と社内に報告があり、葬儀には部長と先輩数名が参加するそうだ。
その日の夜。夢を見た。
場所はあの公園の砂場の一歩外側。私は体を動かす事も口を開くことも出来ない。ただ立ち尽くしている。砂場には先輩がこちらを見ているように無表情で立っており、隣には所々黒い染みが付いている赤いワンピースを着た猫背で長髪のうなだれた女性が立っている。表情は髪の毛に邪魔されていて見えない。女性が先輩に耳打ちして何か話している。
女性が耳打ちを止めると先輩はそこに土下座するような形でうずくまって砂を掘り始めた。ざくざくざくざくざくざく。掘る音だけが夢の中に響く。
見ていた女性が人差し指を先輩に向けた。
掘るのをやめて先輩は自分が作った穴に頭を入れてゆっくりと穴を埋め始めた。見たくない!けど瞼は閉じる事を許さず勝手に涙がボロボロこぼれ始める。先輩の頭が綺麗に埋まった。それと同時に先輩の体がガタガタと震えだして段々と震えが大きくなり手足は壊れんばかりに砂場に打ちつけている。
女性はそれをじっと見降ろしている。
そこで目が覚めた。

1ヵ月後。会社に着いて仕事をこなし、終業まで2時間前と言ったところだったか。
会議室に来るように。と、連絡があり向かった。
ドアを開けると部長とスーツ姿の知らない男性が座っており、近くの席に座るように促されて座る。
部長からスーツの男性は警察の方だと言われ、混乱する。
そんな私に警察は「ああ。ご心配なく。ただの確認ですので」そう言った。
要件は簡単だった。亡くなった先輩に不審な行動は無かったか?誰かに恨まれていなかったか?脅迫されていなかったか?そんな事を聞かれて忘れたくても忘れられないあの夢。関連して先輩がお守りを拾った時の事が思い出され口が勝手に動いた。
「わかりません」
「無断欠勤される前の飲み会で他の方と先輩の方でお帰りになられたそうですが?」
「はい。一緒に帰りましたが電車は別方向なので。駅まで一緒でした」
何度かやり取りしたがこんな感じで全部終わる。
会議室を出て残った仕事を片付けて少しだけ残業して帰った。

2週間後。あの日、一緒に帰った同期の1人に声を掛けられて飲みに行く事になった。指定された店に行くと他の2人を見て納得する。
先輩とあの日、一緒に帰った同期がここに揃っている。声を掛けられた時からなんとなく分かっていた。
全員時々、社内で会う事はあってもこういう風に集まるのが珍しい。
とりあえず乾杯をして同期の飲み会を始めた。
先輩の話を避けて職場の愚痴やプライベートの話をしていたが、1人の同期が「あのさ・・。お前らも警察に話聞かれなかったか?先輩の事で」
泣きそうな顔でそう言った。

「聞かれたぞ・・」「私も」「俺もだ」
そう答えると「なんて答えた?俺は知らないって答えたんだけど」
他3人は同じだと同意した。
「俺、変な夢見てさ・・」
そう聞いて全身に鳥肌が立ちながら「待て。あの公園の砂場で。先輩と女がいて。」
断片的な説明しかしていないが、同期達はこちらを驚いた顔で見ている。
「お前らもか・・?」
全員、頷いている。
「そっか・・」私がそう言って黙りこむと、他のテーブルのにぎやかな声が遠くに聞こえる。
数秒の沈黙後に「俺さ」と話のキッカケを作った同期は話し始めた。
「警察との話が終わった後に、夢の事とかあのお守り拾った時の事を思い出しちゃってさ。何か黙っていられなくて。後日、部長に言っちゃたんだ。公園でのお守りの話を。夢の話も。俺の話を聞いた後に部長から聞いたんだ。先輩の話。部長は家族さんからきいたらしいけどさ・・」
ここまで早口で言うと、ジョッキをグイ。と飲んで少し興奮状態でまた話し始めた。
「先輩。変死だったんだって。事件性が無いってことで自殺ってなったらしいけど。第一発見者は家族さんでさ。で、会社から連絡受けて電話しても繋がらないから尋ねたらドアが開いてて・・。死に方がおかしかったんで警察が俺らに聞いてたみたい。その死に方なんだけど、窒息死で浴槽に水を張ってそこに顔突っ込んでる状態で死んでて、浴槽には長い髪がたくさん浮いてたらしい・・。で、死に方がおかしいから解剖したら肺の中に砂が詰まってたって」
もう泣きながら話していた。
「こんな話してごめんな?けど、自分だけじゃ抱えきれなくて。怖くて。耐えられなくて・・・」
誰も攻める事なんてできなかった。出来るわけなかった。同じ立場なら、同じ事してたと思う。
そいつが泣き止むのを待って、皆で慰めて飲み直してから帰宅した。

夢がまた見るかもしれない。見ないかもしれない。
あの女性と会うかもしれないし、会わないかもしれない。
お守りを見つけるかもしれないし、見つけないかもしれない。
だから、あの公園には近づかない様に生きなきゃいけないんだ。
関わらない様に、興味を持たない様に。










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