見出し画像

蒼の都 サマルカンドの旅

サマルカンドの想い出

現在の世界情勢では、とても「西アジア」へ旅することができない。
ロシアのスパイとか中国の工作員とみられるだろう。
否、その前にビザが下りないだろう・・・
昔、私はイスラエルでスパイを疑われて、ひどい目にあった経験がある。
勿論、私が無知だったことが理由だが・・・

考古学者の友人が、「この地方の研究が滞ってしまう」と嘆いていた。
が、現状では仕方がない・・・
「・・・その前に、ここを研究しようという学生が集まらない」
「このままじゃ、日本の西アジア研究が、世界から遅れてしまう」と嘆く。

人生は「蒼い都」を探す旅のようなもの

人生は砂漠の中に「蒼の都」を探して旅をしているようなものである。
夢や希望を叶えてくれるオアシスを求めて旅をするのが人生だ。
そこに豊かな水があって、人々が憩い、語り合い、愛しあう世界がある。
 
蒼の都は人生の到達点のイメージであるが、そこに至る道は決して甘くない。到達点は遠い・・・私の到達点は、まだ先である。

いま、人生で格闘している人にとって必要なものは、
蒼の都に向かうエネルギーである。

人生に夢がない人には苦痛だろうが、心に「蒼い都」を持つ人は楽しいはずである。「未来への期待感」がすべてを可能にする。
未来を感じない人は朽ちて老いる。これは年齢に関係ない

サマルカンドは砂漠の中に生まれたオアシスの街

世界は狭くなったといっても、中央アジアのサマルカンドに行ったことがある人は少ないだろう。ウズベキスタンの飛行場から、砂漠をジープに揺られて走る。何もない。何も見えない・・・
荒涼とした砂漠の向こうに、ようやく緑が見える。オアシスである。
 
古い時代は、ラクダを連ねた隊商が、オアシスを目安に、何日もかけて歩いた道である。疲れ果てて、途中で朽ち果てた人もいただろう。隊商は、骨や残骸になった遺物を頼りに歩いたという。

サマルカンドは、蒼のタイルで覆われたモスクが並ぶ美しいオアシス都市である。旅人は、サライにある「ハラム」という蒸し風呂で疲れを癒したという。水が少ないから、水蒸気にして肉体を癒した。

私も到着早々に、14世紀にできたというハラムに行って汗を流した。みすぼらしい銭湯であるが、とてつもなく気持ちよい水蒸気の世界だ。
 私は、温められた岩石の上に水をかけたところに寝そべったが、多くの旅人も同じようなことをしただろう。浮いてきて来た垢をゴシゴシ洗い流した。

イスラム化する前のサマルカンドに、私は興味があった


古くはソグド人というシルクロードを制覇した民族が一大商圏を作った地域である。
ローマ帝国・それ以前の西洋の文物も、中国の漢・唐という大帝国で生産された絹製品も、「ソグド商人」の手で交換され、それぞれ異郷の地に散っていった。
ギラギラした欲望が行き交うシルクロードの主人公はソグド商人であった
 
西域に暮らす人々は、独自で大きな独立国家をつくらず、他の民族が作った国家に、政治的には属しながら、経済的には豊かな暮らしをして、グローバルな影響力を持っていた。

唐代の末の「安史の乱」(755~763年)の主役である安禄山は、西域のソグド人と突厥人の混血で、史思明も西域人だったというから、漢民族ではない。
彼らを権力の座に押し上げたのは、ソグド人の強力な経済力だったろう。
 
私はホテルに荷物を預けるのももどかしく、サマルカンドの「砂地」という意味のレギスタン広場に飛び出した。旧市街は歩きやすく、疲れるほど「蒼いタイルの世界」だった。まさに異郷である。

私はまず、ウズグベク・マドルサを探すことにした。
マドルサとは「学校」という意味である。イスラム世界では、聖典クーランを学習することが基本である。イスラムは男性中心の世界だから、女性は入学できない。現在でも、男性・女性の教室がわかれているという。

ウルグベクの天文台


私がウルグベクにこだわったのは、この名前の天文台が、ものすごく精緻な年間日数を計算していたといわれるからであった。
彼らは、1年を「365日6時間10分9.6秒」と計算していたから、現在、算出されているものより「誤差が1分未満」である。
どうして計算ができたのか。精緻な望遠鏡がない時代である。
天体観測の結果とは言え凄すぎる。そこで私は、現地に行って確かめたかったのである。
 
天文台の跡はサマルカンドの街はずれの高台にあった。
この街で高いレベルの哲学・数学などの教育ができたというだけでも驚嘆に値する。それを支える経済力と文化力と、人々の交流があったのである。

やがて、この天文台はイスラムの守旧派に占領されて破壊された。
再発見されるまで400年かかったといわれている。宗教と科学の発展は、キリスト教でも悲劇と齟齬を産んだか、イスラムの世界も同じだった。
 
砂漠の民にとって「水の確保」は至上のことである。
オアシスで水が湧いているといっても、地下に流れる水がたまたま地表に現れたまでのことであって、いつでも人々の生活に充分というわけにはいかない。
そこで、何代も、何代もの世代をかけて、砂漠の地下を掘り続け、水源を発見し、いろいろな工夫をして、地表に水をくみ上げる施設を作った。
砂漠の地下に、巨大な王宮を造るようなものである。これを「カレーズ」という。
 
繁栄するサマルカンドを攻めあぐねたモンゴルのチンギス・ハンは、最終手段として、容赦なく生命の源泉であるカレーズを破壊して、強固な都市を陥落させたという。戦いは、いつの時代でも残酷である。

現在に置き換えてみれば、戦争で化学兵器・細菌兵器を使うようなものである。「禁じ手」を犯し、一度徹底的に廃墟になった都市は再興できない。

だから、現在のサマルカンドは、古いサマルカンドと異なるところにある。
古い都市は、西方のアフラシャブの丘にある。人々の苦労の果てに再興されたカレーズは、今も人々の生活を支えている。
 
貴方の「蒼の都」はどこにあるか。
果てしない旅の向こうに求めるものは何か。その答えは、誰にも分らない。
旅はいま始まったばかりである。勇気をもって先に進もうではないか!
 
私の手元に「蒼いタイル」がある。
タイルは何もぃわない。しかし、「もぅ一度来い!」と、語りかけているようだ!!
「旅はまだ終わらない」と、私は返事をした・・・いつか、いつか・・・。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?