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建設の頓珍漢④【毎週ショートショートnote裏お題】

ベッドを飛び起きてから慌てて身支度と自室の掃除を終え、机の上にノートと語学の教科書を広げる。その瞬間、襖の向こうから階段を上る足音が聞こえてきた。

時刻は八時五十分の手前。ギリギリあの人の到着に間に合ったのだ。

襖を開けると、いつもと同じクールでカッコイイ姿が現れた。私と同じくらいの年齢らしいが、とても大人びて見える。

「おはようございます」

「いつもごめんね。階段の工事は、まだ見通しが立たないみたい」

この生活が終わってしまうのだから、そんな工事など必要ないと思う。

「良かったら、コレ食べてみて。高校の時にお世話になった人が送ってくれたんだ」

その言葉と共に缶詰を受け取って困惑する。ニシンのカレー煮って、なんだコレ?

「それじゃ、またね」

眩しい微笑みと共に、その人は私の部屋の窓から、職場である隣のビルの窓の中に消える。缶詰のお礼を言いそびれてしまった。

その後の朝食でこの缶詰を食べてみたら、白米と合っててとても美味しかった。


(410字)
たらはかに(田原にか)さまの企画に参加しています。

建築の頓珍漢は5編書く予定ですが、その中で最も完成度が高くなる予定の作品でした。

頓珍漢な建築から、様々な頓珍漢が発生する話。様々な頓珍漢の中心に建築の頓珍漢があったというオチです。

最初はイケメンの来訪に動揺して頓珍漢な行動をする語り手の話として書きましたが、イケメンが頓珍漢な方が面白いと思って書き換えました。

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