見出し画像

大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote】

ガーデニングを趣味とする人々の憧れの的に「天使のキス」と呼ばれる花がある。

この花は、非常に繊細で栽培が難しく、配合する肥料割合の僅かな誤りだけでなく、日当たり具合・水やり・温度管理でのほんの些細な不注意で枯れてしまう。花の種子や苗も高価だが、栽培にかかるコストも膨大だ。

しかし、咲かせる花は小さいながらも色鮮やかで可愛らしく、その香りは人の心を陶酔させる。これが、この花が「天使のキス」という異名を持つ所以である。

そういう理由から、「天使のキス」は現在、北アメリカ大陸を始めとして、世界中で栽培される事となった。

そんな「天使のキス」の原産地は南アフリカであり、所謂、コロンブスの新大陸発見以降、ヨーロッパが世界中に影響力を広げるのと共に生息域を拡大させてきた。植民地支配や奴隷貿易で財を成した富豪たちが、特に気に入ったためである。

一説によると、奴隷を何百人も無理やり押し込んだ船の上に、この花がよく咲き乱れていたらしい。

(410字)

上の小説は、史実を題材としたフィクションです。天使のキスと呼ばれる花は実在しません。

たらはかに様の企画に参加させて頂きました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?