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ラーメン部骨伝導――その理念

もう一時間以上が過ぎたであろうか?

ラーメンを啜るASMRをジッと聞きながら、ひたすら空腹に耐えていた。いや、ラーメンを啜る音ばかりではない。山盛りの半生もやしを咀嚼する音、箸で切れるほどに柔らかい極厚の煮豚を飲み込む音、長い長い行列の先で待っている至福の一切がイヤホンから流れていた。

本来のこれらの音は、空気中から鼓膜に届くのではなく、顎の骨を伝って脳に届く。だからこそ、あえて、わたくしは骨伝導イヤホンを使っていた。骨伝導イヤホンは、通常のイヤホンと異なり、骨の振動で脳に音を届ける。つまり、実際にラーメンを食する時と音の聞こえ方が同じになる。これから訪れる幸福を、少しでもリアルに臨場感を持って再現するために、自らの頭蓋を振るわせてASMRを聴く必要があるのだ。音漏れで周囲に聞いている音が知られる事など気にしてはならない。

ラーメン屋の行列を待つときは、かくあるべし。

この理念の下に集ったのがラーメン部骨伝導である。


(410字)
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