読書感想文『批評の教室』
北村紗衣『批評の教室――チョウのように読み、ハチのように書く』(ちくま新書、2021年)を結構前に読了しました。今日はその感想文です。
『批評の教室』というタイトルの通り、この本は批評を書くための入門書です。私個人は、no+e内のとあるサークル主催の企画で、他の参加者が書いた小説に感想文を書くため、この本を手に取りました。しかし、この本では小説に留まらず、映画、歌詞など様々な形態の作品が取り上げられます。最も極端なのが、冒頭で「俺はチョウのように舞い、ハチのように刺す」というモハメド・アリ(ボクシング選手)の決め台詞の批評がされているところです。批評の対象にできるのは本当に色々あるんだな、と思いました。
この本では、批評のやり方を「精読する」「分析する」「書く」の三段階に分けて解説します。で、この本で紹介されている方法に沿って批評を行おうとして、とにかく大変だなと感じました。精読するだけでマジつらい。作品内の事実を把握しましょう、とか、叙述トリックに気を付けましょう、ということが書かれているのですが、それをしようとするだけで普段の読書より数倍くらい気を使います。なお、書こうとした感想文は、気力の限界を迎えたため中途半端な状態(それでも数万字ある)で送信しました。
いま思い返すと、この本については酷い目にあった体験が真っ先に出てきてしまいますが、読んでいて楽しかった部分もあります。
フェミニストの金田淳子さん(以下、カネジュン先生)が、漫画『ジャンケットバンク』があまり好きでないと某SNSで発言しているのを見て、ちょっと落ち込んだことがあります。ですが、上の引用箇所に出会ったことで「カネジュン先生は『刃牙』とか『嘘喰い』が好きな方だから、頭脳派タイプのキャラが多い『ジャンケットバンク』は好きになれなかったのだな」と心の平安を得ました。『批評の教室』は、上の引用箇所が含まれている節だけでも読む価値があると思います。
あと、小説を書く上での技術についての説明が多いのも、個人的には参考になりました(趣味で小説を書いているからです)。『批評の教室』では小説を楽しむ立場から技法の知識を押さえているのですが、説明自体は小説を書く立場から読んでも構わないのです。この本でも「作者の死」という形で言及されていますが、文章をどのように読むかはある程度は読者に委ねられています。
以下、『批評の教室』で見つけた小説執筆技術を列挙します。
繰り返し登場させることによる意味付け「チェーホフの銃」
お決まりの展開を踏まえたストーリー設計
性癖の自覚
「信頼できない語り手」、「羅生門効果」
映画や漫画にも視点人物が存在する
語り手ではない登場人物も嘘をつく
「作者の死」、「作者」と「語り手」の区別
歴史背景の重要性
批評戦略、社会が決めた条件付けと向き合う
時系列に起こす
タイムワープ、フラッシュバック、フラッシュフォワード
人物相関図
物語を構成要素に分解する、ATUタイプインデックス
間テクスト性
キリがないのこの辺りで止めにします。もっとも、執筆技術については作品から直接学び取る方が有効と思います。
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