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「冷たい密室と博士たち」森博嗣 感想

「冷たい密室と博士たち」

久しぶりに再読した。
感想を書いてみよう。

相変わらずとても面白い。


さて、という訳で。
ネタバレだらけである。




それにしても、である。

犀川は、
 ほとんど毎度
 ほとんど嘘つき(みたいなもん)

である。

各作品、よく読んでほしい。




多くの読者(多分)は、このある意味で信頼できない探偵の推理を受け入れすぎている。

読者からした犀川の探偵としての信頼感。

このある種最大なミスリードが特徴的なシリーズである!
(と思う)

彼は、ほとんど常に真相にたどり着く。
しかし、すべてを明かさない。



相変わらず。
タイトルが重要だ。

「冷たい密室」「博士たち」

だ。

どこが「冷たい密室」なのか。

本作には表面的には1つの。
しかし、実際には2つの全く異なる密室が存在する(!)。

どちらを指しているのだろうか。

もう一つのほうが、はるかに冷たい。

僕には、そう感じられる。


「博士たち」

誰のことを指しているのだろうか。

あるいは、登場人物たちには

博士たちと「非」博士たちとがいるのだろうか。

細かいところでは、本作の人物描写がある。
特定のある事柄について各人必ず決定可能なように表現されている。

そして、それは事件とはメタ的にどのような関連を持つのか。
(一人例外的人物がいるから過剰な深読みかもしれない。)

ところで、犯人は真の意味で「博士」だったのだろうか。


次だ。
引用文だ。
毎回、毎回、引用文はかなり重要だ。

無意味なジョーク、理系文章、サイエンス、詩、ポエムではない。
今回の引用文は、方程式の解と系の安定性についてである。

乱暴にまとめれば

「支配方程式の解が複数現れるとき、現実の事象も複数の状態の間で振動をきたしたりする。」

ということである。

本事件の解とその安定性とはなんであるのか。

いや、本作のというべきか。



大学の試験問題作成委員会の犀川のセリフ。

問題作成者側が試されている。
何が問であるのか。これが難しい。
新しい形の読者への挑戦状。

良い。

本作での問とは。

毎度、大学での日常フェーズにも意味が与えられている。

シリーズ上、犀川が特に数学概念・ことわざ等、これらを説明するときは要注意である。
創造主は意外にも、何事も差配するのが好きなおしゃべりタイプである。

裏に与えられた構造を、その作品すべてが表現している。

神は世界を与えてエージェントが中で好きに動くという作家性ではない様だ。(本格推理小説では、これはそもそも難しいか。)

当たり前でもあるが、些末な会話も作者の管理下にある。



大量のコミットメント。

それは

タイトルに始まる。

巻頭の引用。

日常会話。

回想。

すべてがある方向に向かって神により差配されている。

時にこのシリーズ、ロマンスが無駄とか嫌いとかいう人がいる。
しかし、ロマンスでさえ例外ではない。

油断は禁物。

これが本シリーズの一つの答え。

ご都合主義からの脱却。

これが”古典的な本格推理小説批判”からの脱却である。



本作の話に戻ろう。

少なくとも別解の存在は、ある物的証拠によって保障はされている。

幾度か登場し、犀川をヒヤリとさせキラリと光ったそれはなんであるのか。

しかし、結局与えられた条件では、解は唯一とはならない

そして、それで良いことは、引用文が我々に保障している。
(それ以前のすべてが、ともいえる)

それがこの作品の解である。

犀川が一番嫌いなことであったから、唯一解には境界条件が不足した。

我々の解は振動する。



僕個人は、明かされない解に強く惹かれてしまうけど。

それは、自然でつまらないとも言える。
自明な解。x = 0。
〇曜サスペンスみたいな。

メタ的に言えば、
萌絵ちゃんが襲われるところ含めてもそんな感じ。

作者のインスピレーションは〇サスじゃないのかなぁ。
(違うか)


それが、表現されたものを見ると本作になるのだから、すごい技巧だ。
ずっと面白い。

犀川先生のおかげという他ないね。




ところで。

作品にテーマカラーを与えるとすると何色でしょうか。

本作で、別に重要ではないのですが。

皆さんの意見をお待ちしています。
僕は、何かな。青かな。
またすぐに読み直して考えたいところですが。
(あんまり注目せず読んでいた)

小説作品では、当然ながら直接的に色は存在しない(文字ですからね)のですが、キーカラーみたいなものを設定しておくことは意外にも深みを出したりテーマ性を保持し続けるために良いテクニックのように思えます。(基本ですか?)
この点、いくつかの森博嗣作品では明白なテーマカラーがある様に思います。(映像化する人はこの辺を外してほしくないですが。たしかドラマとアニメ(すべてがFになるのみ?)があるはずですが、見たことがありません。見るときには注目すべきですね。)

他に毎回設定すると良さそうなものって何でしょうね。
音とか匂いも考えても良いですかね。(毎回要るか?と言われると微妙ですか。)

時代とか場所とかキャラクタとか歴史とかは、普通考えることではありますけど。

構造とかメタ的なところで、シリーズには何か使えそうなテクニックがたくさんあるような気がします。

だから、森氏は書くのが早いのかもしれないですよね。
(知らんけど。)



いずれも、ピンとこなかった方。
多分、見逃してます。

ぜひぜひ、もう一度お読みになられますよう。
面白いですよ。

僕も順次読んでいきます。
すべてがFになる、は最後にするつもりです。




全然関係ないけど、ゲームのMetal Gear Solid3とかDeath Stranding とかの小島作品は、本格推理小説みたいな、裏の構造があってそれを間接に表現し続ける。
おしゃべりですべてを差配する神という点で似ていると思います。

最近、小島監督が本屋の宣伝?みたいなYoutubeの動画に出てましたが、推理小説好きそうでした。

対談とか無いのかな。

なければ、だれか(本格)推理小説作家とやってほしいなぁ。




ChatGPT 3.5 に相談してみた。

本作みたいな作品を書く時の注意事項について。

解が複数あることが最初から暗示される場合、物語の展開や読者の期待に影響を与える要素に注意する必要があります。特に、○○[注:伏せた]が2つの解釈があり、片方が隠される場合には、次の点に留意することが重要です:
一貫性の維持: 物語の中で提示される情報やキャラクターの行動は、二つの解釈に対して一貫性を持たせる必要があります。解釈が明確にされていない場合でも、物語の中で矛盾が生じないように注意することが重要です。
ヒントやサブテキストの工夫: もう一つの解釈を暗示するために、巧妙なヒントやサブテキストを物語に巧妙に組み込む必要があります。これにより、読者は真相についての考察を促され、物語の魅力が高まります。
キャラクターの行動や発言: 物語のキャラクターの行動や発言は、隠された解釈を暗示する手がかりを提供する場合があります。キャラクターの心理や動機について、読者に示唆することが有効です。
緊張感の維持: 解釈が隠されていることで、読者には不確実性や緊張感が生まれます。この緊張感を維持し、読者を物語に引き込むことが重要です。解釈が明確にされないまま物語が進行することで、読者の興味を引き続けることができます。
これらのポイントに留意することで、解釈が隠されている状況でも、物語の魅力や興味を損なうことなく、読者への挑戦状を十分に表現することができます。

まぁ、当たらずも遠からずかな。
可というよりは良かなぁ。
割と優秀。



しかし、問いを見出すのはまだまだ難しい。
planning, reasoningが弱いのも、あと何年でしょうかね。
推理小説突っ込んで、解説できるようになる日はいつの日か。



ネタバレが過ぎるか?
(動機なんてどうでも良いみたいな話があると思いますが、ある意味で本気で犀川はそう思っているのですよ。
別解においても珠緒さんが殺されたのはある意味では、とばっちりではありますが、謎解きで語られた様な意味でというのでは無いのです。
火サス的あるいは別解における犯人視点では彼女の死は必然です。)

つまりは、2つの解の間でとある人物(たち)の像は恐ろしく振幅が大きく振動するのです。)





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