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イエリッチをWBCで侍ジャパンに召集できるのか

2017年WBCの前にあった「イエリッチ(当時マーリンズ)は日系人だから侍ジャパンになる可能性がある」というニュース。一流メジャーリーガーが侍ジャパン入りの可能性とのことで話題になりました。
話題になった背景に「WBCでは○○系なら○○代表になれる」という前知識が野球ファンの間にあったからだと思います。これは本当なのでしょうか。

結論から言うと、イエリッチはWBCのルール上、侍ジャパンには召集出来ません。同じく日系アメリカ人のカートスズキ等も侍ジャパンにはなれません。実は日系人=日本代表になれるわけではないのです。

正式には下記のどれかを満たすのが代表入りの条件です。
1当該国の国籍を持っている
2当該国の永住資格を持っている
3当該国で出生している
4親のどちらかが当該国の国籍を持っている
5親のどちらかが当該国で出生している
6当該国の国籍またはパスポートの取得資格がある


イエリッチは母方の祖母が日本人ですが、本人も両親もアメリカ生まれのアメリカ国籍なので代表資格がないのです。

補足ーーーーー
ちなみに2019年のラグビーワールドカップでは、日本代表に多くの外国人選手がおり話題になりました。ラグビーも「国籍がなくても代表になれる」という点は同様ですが、WBCとは少し違う点があります。

ラグビーは「3年継続して居住した国の代表になれる」というルールはありますが、これはWBCになく。その点はラグビーより厳しいです。ですがラグビーは一度どこかの国の代表で出場したら他国の代表にはなれません。一方でWBCは一度どこかの国の代表で出場しても他国の代表になれます。この点はラグビーより緩いです。
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ところでなぜ「WBCなら国籍がなくても○○系なら誰でも○○代表になれる」という誤解が生まれてしまったのでしょうか。その原因の一つはイタリア代表とイスラエル代表ではないでしょうか。イタリア代表にはイタリア系アメリカ人、イスラエル代表にはユダヤ系アメリカ人の選手が多くメンバー入りしていました。これを見て誤解した方も多いかもしれません。
実はこの両国が○○系アメリカ人を多く代表に召集できるのは、WBCのルールだけではなく両国の法律が関係しています。
イタリアという国では、イタリア系にルーツがあれば外国生まれでも容易にイタリア国籍を取得することができます。よってイタリア代表のイタリア系アメリカ人の選手は国籍を取得して代表資格を得ているのです。イスラエルも同じ仕組みです。そのため国籍がないと出場できないオリンピックのイスラエル代表にも多くのユダヤ系アメリカ人が代表入りしています。

ちなみに日本の国籍や市民権は容易には取得できず、高い日本語の能力などが必要です。また日本は多重国籍が認められておらず、外国人が日本国籍を取得したら基本的には元の国籍を破棄しなければなりません。

ところでなぜ、WBCはこんな複雑なルールを設けているのでしょうか。ここからは私の個人的な見解になります。

たまに「ヨーロッパは弱いからそうしないとレベルが低くなる」「野球はマイナースポーツだからそうしないと参加国が集まらない」という人がいますが、これは違うと思います。
イタリア代表であれば、元オリックスのマエストリように普通のイタリア人選手も多くいます。イタリア人だけでもある程度のレベルのチームは作れるでしょう。
また世界にはWBC本大会に出てくる国以外にも、ブラジルやドイツなどメジャーリーガーを輩出している国があります。イスラエルのようなチームがなかったら、そのような国が代わりに出場するだけです。

私か思うには、それはアメリカが移民の国であることが関係してると思います。イタリア系アメリカ人のイタリアへの思いなど、アメリカ人にとっての"ルーツの国"への思いは日本人が思うより強いようです。
「住んだこともない国に思い入れ湧くの?」と思うかもしれませんが、それは私のような純日本人には理解できない感覚でしょう。

イタリア系アメリカ人でかつて野茂とバッテリーを組んだピアザは、引退後はイタリア野球の発展に関わり、現在はイタリア代表監督。またMLBの強打者であるマチャド(パドレス)はドミニカ共和国人の両親を持つアメリカ人。彼は実力的にはアメリカ代表にもなれそうですがドミニカ共和国代表としてWBCに出場しています。WBCの代表資格が少し緩いのは、アメリカ人選手の第二の祖国への思いを叶えるためではないでしょうか。
ちょっとそういう面に注目してみるのも、WBCの一つの楽しみかもしれません。

長くなってしまいましたが、読んで頂きありがとうございました。

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