ジェンダーとは何か ① ~ジョン・マネーを批判する~


フェミニズムを語る際に、ジョン・マネーという学者の名前を避けて通ることはできません。彼は20世紀半ばに世界的に大きな影響力を持っており、彼の学説は知識人の間で広く支持されていました。
彼の説は「ジェンダーは全て社会的に、人工的に構築されたもので、身体の性別とは全く無関係であり、育て方や社会環境に左右される」というものです。

これにより、「男児を女児のように育てれば女性らしく育ち、女児を男児のように育てれば男性らしく育つ」と考えられるようになりました。
また彼は「性自認も後天的に刷り込まれるものである」と考えました。

しかし、「ブレンダと呼ばれた少年」の有名なエピソードにより所謂「性自認」が先天的なものであると知られることになり、彼の学説は覆されることになりました。

書籍化された有名な実話ですが、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。軽く紹介します。
舞台は1960年代のアメリカ、ある生後間もない男児が、医療事故により男性器を失ってしまったことに始まります。

ここで、絶望する両親は藁をも掴む思いでマネーのもとを訪ねます。そしてマネーは提案します。
「男児でも女児として育てれば、女性のアイデンティティを持つようになり、女性として成長する。彼を女の子として育てるべきだ」と。

しかしそれは失敗に終わります。彼のジェンダーアイデンティティは生得的な性別と一致した「男性」だったのです。当然女児として育てられることに違和感を持ち、性別違和を感じるようになり、やがて男性に戻るための治療を受けることになりました。
性自認は後天的に変えられないことが明らかになったのです。
また彼は、所謂「女の子用の玩具」を与えられても興味を示さず、男の子と活発に遊び回ったそうです。

マネーの説は誤りであることが示されました。しかし、当時の多くの医師や知識人は、マネーの権威が失墜するのを恐れ、この事実はしばらくの間世に出ることはありませんでした。

なお、非人道的な人体実験により人生を狂わされた少年「ブレンダ」は、後に自ら命を絶ちました。

今では、性自認は先天的なものであることが知られていますが、しかしながら、未だにマネーの思想はフェミニズムの基礎的な部分に根付いており、大きな影響力を持ち続けています。

たとえば男児が模型や機械を好み、体を動かす遊びを好む一方、女児が「おままごと」や「人形遊び」などを好み、幼い頃から家事に興味を持ったりする傾向にあることは、社会的な「偏見の押しつけ」によるものだと考える人が多いでしょう。

しかし、それはある程度は生得的に備わっているものではないかとも考えられるのです。何故、少年「ブレンダ」は女児の玩具で遊ぶことを拒否したのでしょうか?やはりそれは彼のアイデンティティが男性であったからではないでしょうか?

もっとも、どのような遊びを好むかということに関しては、個人差が大きいものであり、おままごとが好きな男児もいますし、機械いじりが好きな女児もいます。

そのように、「男らしくない男性」や「女らしくない女性」を差別したり、その人が望まない「らしさ」を押し付けることはもちろん許されませんが、ある程度の生得的に備わった傾向性は間違いなく「ある」と考えられます。

性同一性障害の診断を行う過程で「小さい頃にどのような遊びを好んだか」というヒアリングをされます。
もちろんそれだけで診断できるものではなく、一つの参考にするにすぎないものですが、子供の頃の遊びは先天的な性自認と一定関係していることを示していると考えるのが妥当でしょう。

Sexが本質的なものである以上、そこから派生するGenderも、一定の本質的な要素があると考えられ、全てを「社会からの押しつけ・刷り込みである」と言い切ってしまうことはできないのでは?

そのように考えています。





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