シーズン4で取り上げたいシリアルキラーは誰?〈制作チーム対談〉朽網泰匡×小西正喜|『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』の舞台裏【第4回】
この5月に、シーズン3配信を終えた『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』。制作陣お二人のリモート対談をお届けします。朽網泰匡さんは企画・立案や公式Twitterの「中の人」として、小西正喜さんはプロデューサーとして、番組を作り上げてきました。制作の要を支える二人が、配信を終えて考えていることとは――。
■リスナーコメントに変化が生まれた
――シーズン3を終えて、どのような感想を持ちましたか。
朽網 番組を開始した2020年頃と比べると、リスナーから届くコメントが変わってきましたね。質も量も。正直なところ、開始当初は番組で取り上げた事件に関するコメントを頂いた記憶がほとんどありません。圧倒的に出演者に関する感想が多かった。それが最近では、「殺人鬼や犠牲者に感情移入した」「番組を聞いたことで、自分を取り巻く環境について考えさせられた」といった、深みのあるコメントが増えてきました。
恐らく当初は、皆さんもどのようにコメントしていいのか、冗談を交えていいのか、迷われたんじゃないかと思います。しかし最近では、出演する(谷山)紀章さんも、平山(夢明)さんも常にフルスイングで、大谷(亮平)さんがそれを一身に受け止めている(笑)。そのユニークな三角関係の妙が浸透したおかげか、ジョークを交えてコメントしてくれるリスナーが増えてきました。「平山さんの語り口のファンになった」という声もよく聞かれます。
小西 はじめは番組が受け入れられるのか不安だったんです。誰が、どのように聴いているかわからないラジオ放送の経験から、交通量の多いところにこの番組を置いて、誤解が生まれてしまうのは避けたかった。しかも音声番組は、出演者の方にイメージを担っていただく部分が大きいです。僕たち制作陣の作り方や、書き方の悪さが、出演者のせいだと捉えられかねない。
ショックを与え、怖いもの見たさに応えることが番組の目的ではありません。音声番組だからこそ温度感も伝えることができるはずで、考えるきっかけになってほしい。そういった狙いがしっかり届くのか、最初は心配だったんです。
シーズン3まで配信してみて、僕が見た限りネガティブな意見はありません。ようやく受け入れられてきたのかな、という確信を持てたのが今シーズンでしたね。
朽網 番組制作前に、制作チーム間で、番組が目指す形について議論しましたよね。取り上げるのはシリアルキラーですから、彼らはどうしたって人を切るわ、煮るわ、食べるわで……。しかし、これらも史実であり、ヒストリーであることには違いない。人物に焦点を合わせて描くうえでは、事件の表層ではなく、ちゃんと人を描かないといけない、ということを話し合った記憶があります。
TOKYO FM側の代表として、小西さんに背負っていただいたリスクは決して小さくなかったと思います。しかも、番組開始はAuDee立ち上げというタイミングでしたから。こんなにエッジの立ったものを、新しいプラットフォームの看板に置いていただいて、とてもありがたかったですよ。
僕は公式Twitterの担当をしていますが、ここでもほとんどネガティブな意見は見当たりません。皆さん楽しんでいる印象で、「面白い」という声が圧倒的です。
――出演者の雰囲気もすごく良いですね。
朽網 そうですね。実は紀章さんも大谷さんも、すごくシャイなんですよ。そのシャイ同士がタッグを組むところから始まっているので、ファンの方には堪らないのでは。互いの呼び名が変わっていくさまも、お楽しみいただけているように思います。
小西 平山さんとの関係も同じですよね。
朽網 紀章さんの平山さんへの呼び名が、「平山先生」から「夢ちゃん」に変わりましたからね。出演者が楽しんでいて、さらにそれを楽しむリスナーがいるというのは、本当に番組の宝だと思います。
小西 一致団結していますよね。
朽網 最初は、誰がこの縁遠いようなキャスティングをしたんだと言われたものですが(笑)。
ちなみに番組開始当初に意識したことがもう一つありまして。プラットフォーム戦略、ビジネス戦略として、アーカイブ化にも注力していました。ラジオ番組というと、ライブ感を伝え消費されていくメディアという側面が強いですが、この番組はしっかりアーカイブ化、ライブラリー化をして、作品として積み重ねていきたいと考えていたんです。
だからこそ、多くのスタッフを投入して構成を練り、クオリティを追求しました。
そのおかげで「こんなに面白い番組になぜ今まで気づかなかったんだろう」「一気に遡って聴いた」という感想が得られるようになってきた。間違いなく潜在的なファンはいたんだと思いますね。まだまだこれからではありますが、そういったニーズの存在を、証明できつつあるように感じます。
■シーズン3で王道を取り上げた理由
――シーズン3では、
Case11 ヘンリー・リー・ルーカス
Case12 アイリーン・ウォーノス
Case13 ジェリー・ブルードス
Case14 レナード・レイク&チャールズ・イング
Case15 ジム・ジョーンズ
をめぐる、5つの凶悪事件が紹介されています。このセレクトを振り返っていかがですか。
朽網 今回は「王道」をやったな、と思いますね。シーズン1、2は探りながらやっていた部分も大きかったんです。「シリアルキラー界のカリスマ」的なテッド・バンディ事件を入れつつ、知名度が低い事件……被害者が多くはないけれどドラマ性があるもの、のバランスを探りました。シーズン2も同様で、有名どころを入れつつ、マイケル・アリグ事件のような変わり種を意識して配置しています。
でも今回に関しては、既に知られているものや、皆さんが興味を持ちそうな大きな事件をあえて持ってきています。アイリーン・ウォーノスは初めての女性殺人鬼ということで入れたかったですし。
ちなみに、ジム・ジョーンズは、平山さんが希望されていた事件でもあるんです。ジム・ジョーンズにするか、エド・ゲインにするかを相談したんですよ。そうしたら、エド・ゲインは今後にとっておこうとなって。
小西 ラインナップに関して、僕は固まってから聞いたんですが、シーズン1、2の打ち合わせで名前の挙がっていた事件が入ってきたりして、いよいよ来たかと。
もしこういった王道の事件がシーズン1に登場していたら、リスナーの感想も「何これ、血みどろじゃん」で終わりかねなかったところですが、シーズン1、2でシリアルキラーの人間ドラマを描き、番組の姿勢を示したうえでの王道なので、事件の背景にあるものが誤解なく伝わったのかなと思いますね。
朽網 そうですね。野球でいえば、遂に3番4番バッターが揃ったような印象ですよね。
小西 奇しくも書籍のまえがきで、平山さんがヘンリー・リー・ルーカスの名前を挙げています。僕も大好きなまえがきなのですが、このルーカスの事件を、シーズン3のトップバッターに持ってこられたのも、これまで積み上げてきたものがあってこそじゃないかなと。ただ平山さんは、この〝攻めた〟ラインナップをご覧になって、「ここのスタッフはおかしいんじゃないか」って仰っていましたが。
朽網 それは最高の賛辞ですよ(笑)。
――印象的だったケースはどれでしょう。
小西 なかなか選べませんが、ジム・ジョーンズですね。事件の形は違うけれど、根底にあるのはシリアルキラー特有の思い込み、自信であって。それが結果的に、900人を超える集団自決に至ったというのは衝撃的です。犯罪事件は、どうしても肉体的な被害に注目が集まりがちですが、その背後にあるのは犯人の歪んだ思考なのではないかと改めて感じました。
朽網 ジム・ジョーンズの事件は歴史的にも大きな事件で、写真を見たことがある人もいるかもしれません。実は、ジム・ジョーンズって、集団自決の前に演説をしているんです。僕が初めて事件を知ったのも、この音声をアメリカのトゥルークライム番組「Sword and Scale」で聞いたことがきっかけでした。
演説は、「さあ皆さん(毒入り飲料を)飲みましょう」というジョーンズの言葉から始まります。しかし聴衆の中には疑問を抱く人もいて、子供だけは助けたいという声が上がる。しかし彼は、「自分が苦しいのならば、子供たちを残すことなく、まず連れていってあげましょう」と信者を説得してしまい、子供たちが先に死ぬことになる。それを見届けて、結局人々が死んでいくんです。
本当に異常な状況ですけど、単にその場が異常だったという話ではありません。背景を探るほど、黒人差別という社会問題が関わっており、それを語らずには読み解けない事件なんです。ジム・ジョーンズの生い立ちについても同様ですね。さらに、わざわざアメリカを出て移住していますから。そういった背景を、多角的に語れる事件でした。
テープが残っているという点では、レナード・レイク&チャールズ・イングの事件も同様です。個人的には、今まで取り扱った中で最悪の事件だったと思っています。やっていることのえげつなさ、極悪非道さは他の事件同様ですが、そのうえ彼らは自らの欲望に無邪気に従い、かつ罪深さを理解した上で犯行を重ねています。被害者を前にビデオテープを回して、数週間生き長らえさせながら、拷問を繰り返すんですから。テープは3本が残っているといわれ、うち2本が捜査で発見され、被害者が確認されたようです。これほど凶悪でありながら、アメリカ国内でもあまり知られていない事件です。今回の中では、一番印象に残っている事件かもしれません。
■生配信イベントの手ごたえ
――4月には、番組の初の生配信イベントが行われましたね。
小西 約1時間半の生配信トークイベントで、冒頭1時間は地上波でも音声生放送という形式をとりました。
朽網 僕はアメリカから、動画配信を見ていましたが、生放送というのがすごくよかった。楽曲がかかっている最中や、番組の合間に、出演者たちのリアルな会話が漏れ聞こえるんですよ。大谷さんが平山さんに、「なぜ連続殺人鬼がいるんでしょう」と質問しているのがとても印象的でした。視聴者の書き込みの中にも、「あの会話を聞けたのが一番よかった」「配信チケットを購入した甲斐があった」というものがありましたよ。
雰囲気もすごくよかったし、生配信イベントというのは、色々な広がり方があるんだなというのを感じましたね。定期的にまたやってもいいのではないでしょうか。
小西 僕も手ごたえは感じています。これから2回3回とやっていけば、一つの形になっていく可能性がありますね。
映像が加わると一気に解像度が上がるというか。音声だけではない現場の雰囲気を見せていくことで、どうして犯罪事件を扱っているのか、我々がどういう風に伝えたいのかを深く感じてもらえたと思います。
たとえるなら、CDで聴くのとライブで聴くことの違いと言いますか。同じ曲を演奏するにしても両者には違いがありますよね。ライブで新たな発見をして、また家で聴いてみようとつながることもあると思うし。そういう循環が、通常の配信とイベントとでうまく作れるんじゃないかなと思いました。
朽網 今度は、生録音や公開イベントをしてほしいというコメントも届いていました。
小西 またぜひ違う形でもやりたいですね。
朽網 イベントとは違いますが、最近はTwitterの音声交流・配信機能「Spaces」も話題です。トゥルークライムでも使えるのでは?
小西 音声配信には注目しています。実はAuDeeにも実装されたんですよ。まるで売り込みみたいですが(笑)。
朽網 それは面白そうです。
小西 「マイスタジオ」というんですが、一般ユーザーがAuDeeの中で、収録、編集、ライブ配信を行えるようになっていて、5月11日にスタートしました。
朽網 つまり、ユーザー自身が音声番組を配信できるということですか?
小西 そうです。音声サービスの活性化につながってほしいなと思っているんです。
投稿してくれる方のお話が本当に上手いんですよ。ラジオリスナーが多いのか、完成度が高くて。トゥルークライムで活用するなら、番組で意見を募集して、ユーザーに音声で回答してもらい、集まった意見に出演のお三方に番組で答えてもらう、ということもできるかもしれませんね。またそこで、コミュニティができて、交流してもらえたらいいなと。
朽網 コミュニティはもっと広げていきたいですね。音声が軸ですけれど、それに留まるジャンルだとは思っていません。4月には番組初の書籍を出していただきましたし、既に横のつながりができているということだと思うんです。生配信だってつながりの一つ。今後はさらに広げ方があると思います。
■シーズン4の構想は……
――順調に広がりを見せている「トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル」ですが、ずばりシーズン4の予定は。
朽網 これは、リスナーからもたくさん質問が届いています(笑)。
小西 ありがたい限りです。毎シーズン、制作準備中は長く感じますが、配信が始まるとあっという間なんですよね。
朽網 やはり配信が始まると、過去のアーカイブにアクセスする方も増えますか。
小西 その通りです。番組自体、AuDeeの中では人気コンテンツで、800以上あるコンテンツの中でも上位の番組です。シーズンを重ねるごとに聴取数のピークが上がっている印象で、シーズン3が始まったこの4月は過去最高になりました。
朽網 僕の頭の中に、次シーズンのラインナップ候補はありますよ。ちょっと新しめの事件もいいのかなと思ったり。最近で言えば、本当に悲しい銃撃事件がテキサスで起こっています。シリアルキラーとはトーンが違いますが、取り上げる意義は大いにあるでしょう。
それから、エド・ゲインは紹介しなくちゃいけないでしょうし、チャールズ・マンソンなど、親玉的な事件はまだありますね。
小西 アイディアはまだまだ尽きませんよね。シーズン4もぜひ制作したいと思いますし、次はどういう形がいいのか、広がり方を含めて考えていきましょう。
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《ジャーロ No.83 2022 JULY 掲載》
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