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サカナの音に魅せられて

2024年1月14日。
人生で初めてサカナクションのライブに参加した日。(正確にはVoの山口一郎さんのライブ)
サカナクションの沼につかって4年弱。ついにこの日が来た。

明るい音楽には聞く人を勇気づけ、励まし、元気を与えてくれる。
だが、時としてそれは己の心に残酷に作用することもある。
普段どんなに好きな曲でも、心が疲れている時やしんどい時には聞けないことは往々にして起こる。
決してその曲が嫌いになった訳では無い、だがその時の自分には、あまりにも眩しすぎて心が受け入れられなかったのだ。

そんな時、心に寄添りってくれるのがサカナクションの音楽だった。
サカナクションが描く「夜」はそっと優しく僕たちを包み込んでくれる。
以前もnoteに書いたが、あの鬱屈したコロナ禍の4年間を乗り越えることができたのはサカナの「夜」があったからこそだと思う。

とにかくサカナクションに会いたかった。
彼らが奏でる音楽を、旋律を生で浴びる日を夢見ていた。
だから一郎さんがサカナクション復活に向けての個人ツアーを開催すると知ったとき、本当に嬉しかった。ついに一郎さんに会えるんだなと。

一郎さんの現在地を示すという今回のツアー。
2年間の休養を経て、たどり着いた境地。
取り繕った姿ではなく、ありのままの自分をさらけ出すという彼の覚悟を感じた。

結構な頻度で来ている東京ガーデンシアターが、今日はなんだが別世界に感じられた。
座席に着いた辺りで緊張は頂点に達していた。
初めてのライブというのはいつになっても緊張するものだ。

会場が暗転し、一郎さんがステージに登場する。
生で初めて見る一郎さんは、なんだか画面で見るより小さく見えた。
僕はこの時、恐れ多くも心配していた。
一郎さん大丈夫かな、無理してないかな、と。
だが1曲目の「サンプル」を歌い始めた瞬間、そんな心配は杞憂だったと分かる。
力強くて、それでいて繊細な歌声。この歌を聴くために今日に辿り着いたんだなと改めて認識した。

「息をして 息をしていた」
心の奥底から絞り出すように言葉を紡ぐその歌声は、聴く人の心に直球で響き渡る。
自分の心情を吐露するように歌う一郎さん。その姿はどこか息苦しそうで、歌詞も相まって聞いている自分自身も一緒に呼吸をしているような感覚だった。

サカナクションのライブは「浅瀬」の楽曲から始まり、中盤にかけて「深海」の楽曲に潜航するのが多いように感じられるが、今回のライブは初めから「深海」だった。
ステージに設置された2つの円形状のモニターは潜水艦の窓のように感じられ、まるで東京ガーデンシアター自体が海に潜っているような感覚に包まれる。

深海から浅瀬へ浮上し、また深海に潜る。
現状から中々抜け出せない苦しみを、言葉で、音楽で、演出で、そして全身で表現している。
それを聞いている我々もまた、一郎さんの軌跡を追体験していた。

映像等で見ているとはいえ、改めて驚愕したのがチームサカナクションの圧倒的演出だった。
計算し尽くされたライティングに、最高の音響は、サカナクションの世界に我々をどっぷりと浸らせてくれる。
さらに今回のライブはPA卓がステージ上に設置されており、通常のライブではありえない配置となっていた。

一郎さん曰く
「何度もライブをやっていると、どうしても演出もパターン化して摩耗してしまう。」
「新しいことに挑戦したくて今回はステージに配置した。」と。

この人は何処までもエンターテイナーで、探す遊びの達人なんだなと思った。
この柔軟な発想こそが、サカナクションを唯一無二のものにしているんだろう。

電波を介さずに届けられる生の音、歌声、演出。
長らく忘れてしまっていたあの感覚を、久方ぶりに思い出していた。
応援するアーティストの歌声を、音楽を初めて浴びる時のあの興奮を。

音楽って、ライブって本当凄い。
音が全身を包み込み、体の内側からエネルギーの波動となって鼓動するあの感覚。
言葉では表しきれない魅力が確かにある。ただ、どうしようもなく音楽が好きで、サカナクションが好きだとあらためて認識した。
そんな瞬間だった。

ライブ終盤、一郎さんがこれで最後だと初めて漏らした弱音、本音。慎重に言葉を選びながら、されど真っ直ぐに僕達ファンに伝えようとしてくれる。
少し沈黙の後、ぽつりと零れた「しんどかった」という重い言葉。
一郎さんがどれほど辛かったかなんて想像もつかないけど、それでも音楽を続けてくれて、僕らの元へ帰ってきてくれたことが本当に嬉しかった。
なにより、普段弱音を吐かない一郎さんが、こうしてファンの前で正直に伝えてくれたことに、ある種の信頼関係を感じていた。

白波トップウォーター。
一郎さんの現在地を示す公演の最後に相応しい楽曲。
しっとりと、会話をするように歌い上げる一郎さん。
「悲しい夜の中で 蹲って泣いてたろ 」
「街の灯りが 眩しくて 眩しくて」
この2年間、一郎さんが抱えてきたであろう苦しみや悩みと重なり、涙が止まらなかった。

そして涙も乾かぬまま、サカナクション4月から復活の発表。
ついに5人のサカナクションに会える日が来るのかと感無量になっていると、何やら聞き覚えのあるカウントが。

そう、新宝島である。
すると驚くべき早さで舞台転換が始まり、左右から楽器を携えたメンバー4人が登場した。
ちょっと意味がわからなかった。
情報量が渋滞を起こし、脳がオーバーヒートしそうだった。
それでも、ステージに立つ5人の姿はしっかりと脳裏に焼き付けた。

5人のサカナクションを見た瞬間、涙が止まらなかった。
当たり前のことなんて、何一つないんだということを知った。だからこそ、この5人がまた戻ってきてくれたことが本当に嬉しくて、感謝の気持ちで一杯だった。

無敵の5人だと思った。もはや神々しかった。
サカナクションはいつも良い意味で裏切ってくる。
新宝島を聴いてこんなに泣く日が来るなんて、夢にも思わなかったのだから。


一郎さんの軌跡を知ることが出来て本当に良かった。
そして今日という日に、サカナクションの再出発に立ち会えたことを誇りに思います。
これから紡がれる新しいサカナクションの音楽が楽しみで仕方ありません。


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