見出し画像

scene 000 イントロダクション

scene 000 イントロダクション

 ────UC0083、12月4日────

かえりみろ!」

 猛獣の咆哮ほうこうを思わせる、聞く者の心に直撃してくる太い声が響いた。

「今回の事件は地球圏の静謐せいひつを夢想した、一部の楽観論者が招いたのだ!」

 演説のだんにしてはやや暗い、薄くヴェールに覆われたかのような照明演出の中、拳を持ち上げそびえ立つ大男が熱弁をふるっていた。
 体格に相応しい大きな頭。その上に乗せた軍帽が、小さな烏帽子えぼしの様に見える。

「──また3日前、北米大陸の穀倉地帯に大打撃を与えた、スペースコロニーの落下事故を見るまでも無く!  我々の地球は絶えず! 様々な危機にさらされているのだ!」

 声に相応しいいかつい顔。その眼を被っているゴーグルは機械的で、円形の無機的な瞳が2つ飛び出している様に見える。
 全てが、聴く者に威圧感をあたえる演説だった。

「地球! この宇宙のシンボルをゆるがせにしない為にも、我々は誕生した!」

 この時代の発達した通信技術により、演説は地球全域のみならず、宇宙ステーション、月面都市、そして スペースコロニー……
 地球圏と呼ばれる全ての場所に、あます所無く同時放映されていた。

・・・・
・・

 広いオフィスでピンと背筋を伸ばしてデスクに向かい、なにやら分厚い書類に目を通している将校がいた。
 壁の埋め込み式モニターは先からずっとあの演説を映しているが、将校はそれを聴いている風でも無かった。

「地球! まことの力を、再び! この手に取り戻すために──」

 不意に、モニターは演説を打ち切って消えた。
 スイッチから指を離し、初めて書類に向けていた顔を上げて、将校は小さい、しかし、とても深いため息をついた。

「……あなたの懸念が、最悪の形で実現しようとしています……閣下……」

 ひそめた眉の奥の瞳は、オフィスの天井を抜け、遥かな宇宙そらを見ているように遠かった。

・・・・
・・

 A few yeas ago数年前

 Under war一年戦争末期



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?