烏の城1.0
以下に語られる内容は、すべて実話です。まあ多少の記憶違いは、あるかもしれないけど。とりま、烏に関する記憶を、供養させてくれ。
大学一年の冬、とかだったかな。僕はツイッターで、太宰治botを探していた。僕は太宰治好きだったから、bot見付けた後も、趣味が合う垢とかないかな~みたいなノリで、他の垢を漁ってた。そのなかに、「太宰治になりたいボーイ」という垢があった。いい感じ、と思って、フォローした。フォロワー数は、数千くらいの、準インフルエンサーくらいの規模。ツイートの内容は、あんまり覚えていない。けど雰囲気が気に入った。フォロバは来なかったけど、しばらく追ってた。ツイキャスとかも、見に行った。
一年ちょい経った。僕の大学垢は、病みツイート量産してたせいで、フォロワーどんどん減ってて、もうここは僕の居場所じゃない、とか思ってた。メインで使う垢を別に作った。まあ垢を移行した目的は、他にも色々あったんだけど、その辺の事情は、別の機会にね。その垢で、「太宰治になりたいボーイ」もフォローした。フォロバは、また来なかった。けどやはり雰囲気が好きだから追ってた。そのうち、彼のプロフィールに、別の垢のリンクが貼られてた。「羽藤からす」。彼女とか、かな?なんて見当違いのこと考えて、無駄に心臓バクンてなったりした。名前的に、どう考えても男じゃん。てか、始めに断っとくけど、僕は普通に異性愛者なので、彼女がおったところで、焦る必要はなかった。その点は、強調しておく。反語とかじゃなく、まじで。
羽藤からすも、素性が気になるから、一応フォローしといた。描いた絵の画像とか、ツイートしてた。フォロバは、当然来ない。僕の垢は可愛いぬいぐるみのアイコンだったんだけど、まあ期待はしてなかった。たぶん彼とか、同じ界隈の人が好んで絡んでくるタイプの垢じゃなんだろうな、って自覚は、最初からあったし。
で、勿体ぶるのはこの辺にして、結論から言うと、羽藤からすは太宰治になりたいボーイの別垢だった。僕はツイッター歴はそれなりにあったが、空気読むのが苦手過ぎて、別垢だと断定するまでに、しばらく時間がかかった。というより、別垢の訳なくない?って変な確証があった。今思えば、何でそんな確証を持っていたのか謎である。羽藤からすが、キャスをやってた。見に行った。聞き覚えのある声だった。で、その声が、「これ最近作った活動垢で~、いままで太宰になりたいボーイって垢メインで使ってたんだけど~、」みたいに話してて、すんごいびっくりした。そんで、「太宰治になりたいボーイさんと羽藤からすさんって、おんなじ人だったんだね」みたいなツイートした。そんで、またびっくり。いいねが付いた。羽藤からす、から。
♡イイネ
と、ここまでなら、ありふれた話。ツイッター・ワールドでは、よくある出来事。人気垢への片思い。たまに相手してもらった時の高揚感。この垢とこの垢、同一人物だったんかーい。僕にとっても、まあ、ありふれた話だった。彼が特別な存在になったのは、その後だったな。
という訳で、これ以降、羽藤からすのことは、「烏」って表記するね。僕が個人的に、そう呼んできた。ツイートする時とか、一応特定を避けて、隠語みたいにして使ってた。主に大学垢で。大学垢、まだ削除はしてなくて、時々ツイートしてるんよ。そのとき、「烏は~」とか書いてる。話を戻すね。
ある日、TLに動画の投稿があった。烏が自作の曲を上げたのだ。タイトルは「サイコビッチ」。なんかサイコビッチさんっていう垢がいたらしくて、烏と絡んでるのも何度か見掛けた。たぶん、リアルでも会ったことあるんだろう。その人に、曲作ってあげたらしい。そうそう、ここで書いておくね。僕、大学は東京じゃなかったんよ。とある、雪がわんさか降る、地方都市の大学に行ってた。で、烏は東京に住んでた。某美大の学生。サイコビッチさんも、たぶん東京の人だな。そんで、僕は「サイコビッチ」を、タップして聴いてみた。
きっかけがあったとしたら、たぶんその時だったな。
青空のビジョンが浮かんだのを覚えてる。彼がどっかビルか何かの屋上で、ギター抱えて歌ってる、みたいな。彼の容姿は、キャスとかで知ってた。不思議なコード、というか、和音というか。音楽には詳しくなくてね。けど、なんか不思議な感じのする曲だった。伴奏とかはシンプルで、ギター抱えて弾き語ったのを録音したんだろう。歌も上手いかといったら、少なくとも世間一般での上手さとは、たぶん違う。演奏も雑な感じがあった。けど、何でだろうな。僕の持っていない、今まで存在すら知らなかった何かが、彼のいる場所に、ある気がした。
彼の人格とか、能力とか、作品そのものとか、そういうのじゃない。彼に見えている世界、彼が暮らしてる生活空間、彼が日常と呼んでいるもの。それに、僕は強く惹き付けられた。恋愛じゃないけど、あれを一目惚れって呼んでいいなら、僕が一目惚れしたの、人生で一回きりだ。
グレート・ギャツビーで、「あなたが住んでいた、たったそれ故に、美しかった街」みたいな一節がある。それに近い気がする。
朽ちたシンクの匂い、灰色をした午後の光に洗われる台所の縁、湿気の多すぎる玄関の静寂、微睡から覚めて最初に目にする、げんなりするような白々しい蛍光灯の明かり――。
それらがもし、君の眼に映る景色であったなら。
この日常の些細な一端のすべてが、どれほど美しく、意味に溢れて、僕に感じられたことだろう。
↑これは、僕が書いたポエム。グレート・ギャツビーの引用ではありません。影響は受けてるけど。
とまあ、ここまで読んでくれてありがとう。僕と烏の話は、まだまだ続くよ。続きは、気が向いた時に、また書くよ。
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