見出し画像

デートは業務スーパーで

ある日、業務スーパーの前を通りがかったので、自転車を停めて中に入ってみた。特に欲しいものがあった訳ではないのだけれど、以前母が、「おじいちゃんたら業務スーパーででっっっかいドレッシング買ったんだって。な~んで、あんな使いきれないものをさ~」と言っていたことを思い出したのだった。

業務スーパーの風景は、いつも行くふつうのスーパーに比べて、なんというか、「わんぱく」とか「すがすがしい」というような感じ。当たり前だけれど商品はどれもばかでかいので、自分が一回りちいさくなってしまったみたいで、たべもののパワーをどっしり感じるような。

棚を順番にみてゆくと、まずは広い冷凍コーナーが続いていて、手羽先や剥きエビ、ムール貝、あとは揚げるだけのかき揚げや、クマが笑っている形のポテト、うどん、カット済みのパプリカやブロッコリーやニラ。奥へ進むと、調味料や缶詰、お菓子などがあって、マカロニや紅ショウガがつまった袋は枕くらいの大きさだし、こんぶつゆは二リットルのボトル、カレールーは一キロ。うまい棒は30本セット。

山のように積まれている「緑豆はるさめ」を眺めて、わたしは「おお。」と思ってしまう。ふと、「わたしって、果たして死ぬまでにはるさめを何グラム食べるのだろうか」というようなことを考えて。でも、やはり日本のどこかのはるさめ工場では、今もたくさんのはるさめがつくられていて、それをここで、例えば飲食店を営んでいる人が買っていくのかもしれないし、あるいはとてつもなくはるさめ好きの人が買っていくのかもしれない。この町にもたくさんの人が住んでいて、それぞれの食卓があるのだなと思う。

随分前だけれど、友人に「どんなデートがしたいか」ときかれたことがあって、わたしははるさめの山をみながら、「業務スーパーへ行く」と答えたらよかったななんて思った。生活に密接なものと、全く関わりのないものの狭間みたいな場所、それでも、なにか身の回りの物事について、なにか発見のあるような場所へ。「アメリカ映画のダイナーに出てくるサイズのケチャップだよ」とか言い合って、買ったことのない食べ物を買う。ココナッツミルクの缶詰、チリソルト、自由の女神がパッケージに描いてあるベーグルや、ヘーゼルナッツのクリームを。

おじいちゃんが買ってしまった、学食に置いてあるようなドレッシングもあった。食べきれないものを買うのはよくないけれども、つい買いたくなってしまう気持ちは分かる。どことなく、少年のような気分だったのではないかと思う。おむすびも、唐揚げも、クリームパンもわたがしも、プリンも、大きい方がうれしい。大きいたべものっていうのは、どうにもこうにも、魅惑的なものなので。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?