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イベントを終えて

9/14、ZINE「海の見えるホテルの朝食」の発売イベントを行いました。会場は京都の本屋さん「ふるふる舎」さん。イベントはZINE作成にまつわることがらをお話しする、トーク形式でした。一緒にお話をしてくださったのは、Atelier3というお名前でブックデザイナーをされている、ふじわらひとみさんです。
今回のZINEは、制作自体は自らやったものの、さまざまなアドバイスをふじわらさんからいただいたり、以前から一緒にものづくりをさせていただいていた経緯から、ともにイベントを開催することとなりました。

イベント当日、少しはやめに、わたしとふじわらさんは集まって、かつ丼屋さんでお昼ごはんを食べました。
かつ丼屋さんだけど、わたしは券売機で釜玉うどんの食券を買い、運ばれてきたお盆には生卵の黄身と白身を分けられるステンレスの道具がついてきて、わたしはそれを初めて使って、すると簡単につるんと黄身をうどんの上にのせることができ、釜玉うどんはおいしく、ふじわらさんの頼んだお盆を見て「かつ丼も捨てがたかったナア」なんて思い、近くのテーブルでは仕事の合間なのだろう、ワイシャツを着た若い男性がどんぶりをかきこんでいる。おだしのにおいが満ちていること。あたたかいごはんのある場所は好きだなって、思いました。

つくったZINEはそういうような、生活の一挙一動を延々とかいたもので、そしてそれをえがく理由をお伝えできたらと、今回のイベントを行いました。イベントに足を運んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

トークイベントをやります、と告知をしながら「わたし、トークイベントやるのかあ」というきもちで迎えた当日でした。
というのも、わたしにとって「話す」ということは、ちいさなころから一大イベントのようなものとしてわたしの身体にぴったり張り付いているものでした。「おはよう」とか、名前を呼ばれて「ハイ」と言うことすらむつかしいような幼少時代もあったけれども、今、ふじわらさんとともにトークイベントをやりましょうという目的ができたときに、ふしぎと、純粋に、やってみたいなあと思ったのでした。

ふじわらさんは、書籍や冊子のデザイン、詩や言葉にまつわる、ものづくりをされています。

ふじわらさんのつくられるものは、いつも、手で触れたくなるものばかり。焼きたてのパンだとか、子馬の背中だとか、ページの間に挟まっていた、葉っぱの葉脈のような。親しみと、自然への敬意を感じられるような。細部にこめられるこだわりは、ふじわらさんが普段、どういうものに注目し、慈しんでいるかということの表れだと感じています。

ふじわらさんと過ごす時間の中では、目にうつるものを同じ速度で観察し、思いを深められるようなそんな気がしていて、それがまた、わたしが書きたいものに投影されたりする。だからそういった意味でも、わたしの書くものはわたしだけの力でできたものではないということ。
そばにいてくれる方々が生み出す物や、かけてくれる言葉や、仕草や、感情の揺れ、それらのおかげです。ですから、いつもありがとう、ということをお伝えしたいです。

そんなふじわらさんが、会場のふるふる舎さんとのつながりも、もたらしてくださったのでした。お店にはじめてふたりでご挨拶に伺ったとき、いたく感動したことを覚えています。

大通りから細い脇道に入って行くとき、トトロのメイちゃんみたいな気持ちになったこと。お店の佇まいに、丁寧な心持ちで引き戸を引きたくなったこと。どの季節にも訪れたい、草花があること。店主さんの笑顔や話し方があたたかく、安心し、ぐるりぐるりと本棚を何周も眺め、しまいには床に正座して夢中になってしまったこと。それは小学校の図書室で感じたような時間の流れで、そういえばふるふる舎さんの棚には小さなフラスコがあったりする。理科室、普段の教室とはちょっと違う、男の子と向かい合わせになって席に着いたり。色の変わる紙を使ったり、火を使ったりする。わたしは理科室が好きだった。

このような場所でイベントをさせていただけたこと、そしてわたしの話すことばを、そっとそっと聞いてくださった皆様、本当にありがとうございました。この世界はふしぎなことだらけ、ことばにできない、もどかしさに途方に暮れることがありますが、そうやってゆらゆらしていることが、本当はすごく自然なことなんじゃないかって。沈黙やためらい、なんてものが、救いになるときもきっとあって、ただ寄り添うだけのようなお話を、わたしはこれからも書いていけたらいいなと思います。(そんなことをまとまりなく話したイベントでした…どきどきしました。楽しかったです。)

イベント前後も、集まってくださったみなさん同士でわいわい、楽しそうにされているのも、すごく嬉しかったです。店先でお見送りをした後、戸のガラス越しに見た、みなさんがそろそろそろと帰って行く後ろ姿も、ドラマチックだったんです。

そのあと、帰り道にはふじわらさんと、十五夜の月を見ました。あまりにも明るく、まんまるだった。眠たげな顔をして、ふたり、和食屋さんに入って瓶ビールを分けて、飲みました。そうやってそうやってまた、まわりの方々のおかげで、ただ並んでいく、わたしの日々です。感謝を込めて。


(掲載したお写真は、ふじわらさん作成のもの、ふるふる舎さんHPよりお借りいたしました。)

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