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図書館に咲く

自転車で30分くらいかけて、図書館へ行く。長い坂道を登っていかなければならないので、着いた頃には喉がからからになっている。からだも温まっていたので、コートも脱いでしまって、荷物と一緒にロッカーに預けた。

本棚を挟んで向かい側の通路から、会話が聞こえてきた。「ちょっと旅行に行くので、借りたいんですよ」と、おじいさんが言う。「これは、CDになっているものですね」と、職員さんが言う。
「じゃあ、全然違いましたねえ」
「ほかにもお調べしますね」
「あの、旅行って言っても、ホテルにずっといるんです。だから6冊ばかし、借りたいんですけどね。あの、海外に行くんですよ」
というような会話だった。

わたしは借りたかった本が2冊あったのだけれど、館内をうろうろしているうちに結局6冊借りてしまった。図書館の職員さんはみんな親切だ。やさしいトーンで話をしてくれる。素敵なお仕事だなといつも思っている。

図書館から出ても、さっき聞いた会話から想像される情景が、頭からなかなか離れなかった。はたしてどこの国なのかわからないけど、不思議と、あたたかい気候の場所を想像していた。窓辺のカーテンが風で揺らめいているようすが、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。

入り口のそばに、さざんかが咲いていた。重たくなったリュックサックを背負い、自転車に乗る。帰り道はほとんどペダルをこがなくても進むことができる。でも風が冷たいから、マフラーをきっちり巻いた。

お昼ご飯をまだ食べていなかったので、坂道の途中、スガキヤでラーメンを食べ、そのあとで借りてきた本をちょっとだけ読んだ。図書館の本はいろんな人の手に借りられて、いろんなところにつれていかれるのだ。異国の窓辺はとてもうらやましくて、恋しい。でもまあ、スガキヤもそう悪くはないと思っている。窓辺では味噌ラーメンが恋しくなるかもしれない。

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