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コミュニティでシーンを支え、世界に挑む―日本の『CoD Mobile』競技シーンのこれまでと今

2019年10月にリリースされた、『Call of Duty: Mobile』(以下、CoD Mobile)。現在までおよそ2年半にわたって、コミュニティ大会が中心となって国内の競技シーンを支えてきた背景があります。

今回は、シーンの初期から『CoD Mobile』の大会実況を務める、eスポーツキャスターのけーしん(@F7Ksin)さんにインタビュー。国内の『CoD Mobile』競技シーンのこれまでの変遷や、現在のシーンを取り巻く状況について、お話をうかがっていきます。

(取材・文:綾本ゆかり)

キャスターとして『CoD Mobile』シーン初期から活動


――最初に、けーしんさんの簡単な自己紹介をお願いします。

けーしん:CoD歴は、今年で8年になります。18歳の時、コンシューマ版の『Call of Duty: WWII』のシーズンからアマチュア選手として活動していたのですが、『Call of Duty: Black Ops 4』(以下、CoD:BO4)のシーズン途中でチームが解散し、それを機に競技シーンを引退しました。

その後は、k4senさんに憧れて実況をやってみようと思い、カスタムの配信などをしていたら、コミュニティ大会の方から声をかけていただいて。『CoD:BO4』の頃から、コミュニティ大会の実況をさせていただくようになりました。

その後もコミュニティ大会での実況を続けていたところ、『CoD Mobile』がリリースされて、モバイル版でもコミュニティ大会の「GGL」で実況をするようになりました。昨年からは、『CoD Mobile』の公式大会でも、実況を務めさせていただいています。

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「GGLPRO SEASON0」で実況を務めるけーしんさん(写真左)

GGLルールでのコミュニティ大会が浸透した2020年

https://youtube.com/c/GGL%E5%85%AC%E5%BC%8F%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

――国内の『CoD Mobile』競技シーンについて、これまでの大まかな流れをお聞きしたいと思います。まずは、リリースから2020年頃までの流れを教えていただけますか?


けーしん:リリースからまもなく、国内ではコミュニティ大会のGGLが立ち上がりました。当時は『CoD Mobile』の公式大会がなく、競技ルールが存在しなかったんですね。そこで、独自の競技ルールを作ったのがGGLで、いわゆる“GGLルール”でのコミュニティ大会が高い頻度で開催されるようになりました。

GGLの認知度が一気に拡大したのは、2020年5~6月のコロナの影響で初めての緊急事態宣言が出た頃。競技シーンのプレイヤー人口が増え、大会配信の同接は最大2,800人くらいになりました。2020年の夏には、GGLの運営が制作する「PLEADES(プレアデス)」という、プロチームを招待したリーグもスタートし、約1年にわたって開催されました。

そして、公式大会としても、パブリッシャーのアクティビジョンさんが主催する初の世界大会「CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2020」の開催が発表されました。ただ、公式大会で採用されたグローバルルールは、国内で浸透していたGGLルールとは大きく異なっていたんです。

実は、国内ではGGLルールの方が高く支持されていたんですね。なので、グローバルルールに移行するチームは少なく、そこに挑戦していたプロチームもわずかでした。公式大会は18歳以上という年齢制限があるため、それも移行するチームの少なさに影響していました。

その後、2020年の世界大会には、日本から「REJECT」が出場することが決まったのですが、残念ながらコロナの影響で、グランドファイナルが中止になってしまったという経緯があります。

グローバルルールへ移行し、世界で活躍を見せた2021年


――GGLルールとグローバルルールの違いについては、後ほどくわしくお聞きしたいと思います。続いて、2021年頃の流れを教えていただけますか?

けーしん:2021年5月に、世界大会「CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2021」の開催が発表されました。このタイミングで、「SCARZ」や「VrilliantOwlX(ブリリアントオウル)」、「BBV Tokyo」といったプロチームが、公式大会でもしっかりと結果を残そうと、グローバルルールでの練習を始めています。

予選を勝ち上がり、8月に実施された日本地域のプレーオフで優勝した「SCARZ」には、アメリカで開催されるグランドファイナルへの出場権が与えられました。ただ、この年もコロナの影響でオフライン開催が難しくなり、北アメリカ・ラテンアメリカ・ヨーロッパの西部地域、アジアの東部地域の2つに分けて、オンラインで開催されることになったんです。

2つの地域に分かれたことで枠が増え、日本地域プレーオフで2位だった「VrilliantOwlX」が出場権を得て、日本から2チームがグランドファイナルに出場しました。結果としては、「SCARZ」が6位。そして、「VrilliantOwlX」が大健闘して3位にランクインし、賞金125,000ドル(約1500万円)を獲得しています。

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「CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2021」VrilliantOwlX vs ALMGHTYの試合

さまざまな課題に直面する、競技シーンの現在


――そして、今年2022年ですね。現在の『CoD Mobile』シーンの状況について教えてください。

けーしん:昨年末の「SCARZ」と「VrilliantOwlX」の活躍で、競技シーンが盛り上がるかと思ったのですが、なかなかそう上手くはいかず……。国内で定期的に開催される公式リーグのような大会が存在しないため、2022年2月には「REJECT」のCoD Mobile部門が解散を発表するなど、撤退を決断するプロチームも出てきています。

現状もしGGLがなくなったら、プロチームが活躍する場がほとんどなくなって、国内の競技シーンが終わってしまうと言えるくらい。それほど、コミュニティ大会のGGLがシーンを支える存在になっています。

――世界大会については、今年も開催が告知されているのでしょうか?

けーしん:はい、今年も「CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2022」の開催が発表されています。賞金総額は、200万ドル(約2.4億円)。ステージ1~5までの年間を通したスケジュールで行われます。

エントリーはすでに3月31日からスタートしていて、ステージ3までの予選を勝ち抜いたチームが、8月に開催されるステージ4の日本地域プレーオフに出場します。そして、日本地域プレーオフで出場権を獲得したチームが、12月にオフラインで開催されるステージ5のグランドファイナルへ進出します。

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「CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2022」年間スケジュール

――今のところ、この世界大会の予選にあたる大会が、唯一国内で行われる公式大会ということですね。他にも、国内のシーンが抱えている課題があれば教えてください。

けーしん:世界大会はSONYさんがスポンサーになっていて、Xperiaのスマートフォンが使用端末として指定されます。ですが、予選のうちステージ3までは、使用端末に制限がありません。

使用端末が指定されるのは、ステージ4の日本地域プレーオフから。そのタイミングで、指定のスマートフォンを持っていないプレイヤーに端末が配布されるので、指定端末で練習できる期間がどうしても短くなってしまう状況があります。

――使用端末に関しては、モバイルの競技シーンならではの課題ですね。トップのプロチームは世界大会を見据えて、あらかじめ指定端末で練習していたりするのでしょうか?

けーしん:今年の世界大会の開催が発表されたタイミングから、「Team Vrilliant(2022年1月にVrilliantOwlXから改名)」の選手たちは全員、指定のスマートフォンでの練習をスタートしているそうです。


GGLルールとグローバルルールの違いとは?


――先ほど挙がっていたGGLルールとグローバルルールについて、主な違いを教えてください。

けーしん:GGLルールでは、競技性を重視するため、オペレータースキルやスコアストリークがすべて禁止されています。また、コンシューマ版だと強すぎる武器が、GA(※)で制限されたりしますよね。GGLルールではそれを、コミュニティ大会側であらかじめ設定しています。

※GA:Gentlemans Agreement(紳士協定)の略。公式ルールに加えて禁止や制限を行う、一部のプロの間で取り決められる暗黙の了解のこと。

ゲーム内ルールも、例えば「HARDPOINT」の勝利条件となる到達ポイントは、『CoD Mobile』では通常150ポイントですが、コンシューマ版と同じ250ポイントに設定しています。

一方で、グローバルルールはもともと、競技シーン向けの制限がほとんどなかったんです。現在は、一部の武器やスコアストリークの使用に制限が設けられて、グローバルルールもより競技性のあるルールに改定されています。

――GGLルールは、GAにあたるものを内包しつつ、コンシューマ版の競技ルールに寄せてきたということですね。

けーしん:そうです。当初、これから『CoD Mobile』の競技シーンができていくにあたって、コンシューマー版の競技ルールに近いものになっていくだろうという予想から、GGLルールが作成されました。ところが、実際にはグローバルルールの方向性はそうではなかったため、結果的に大きく内容の異なるルールになっていたという形になります。

――次回の「GGL#2」では、グローバルルールが採用されているそうですが、今後はグローバルルールに統一されていくのでしょうか?

けーしん:世界大会を経験した「SCARZ」や「Team Vrilliant」がシーンを牽引していて、グローバルルールで戦いたいというアマチュアチームも出てきています。なので、GGL#2のような大きなコミュニティ大会では、世界で1位を獲れるチームを輩出するため、グローバルルールが採用されています。

ただ、GGLルールを楽しむプレイヤーも一定数いるので、GGLルールを採用したゲリラ大会などは、今後も開催される予定です。

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2022年1月時点のグローバルルールまとめ(Z-ONE公式Twitterより引用)

気になる海外の競技シーン、強豪地域は東南アジア


――海外の『CoD Mobile』競技シーンについても、お聞きしていきたいと思います。シーンが特に盛り上がっている地域や、各地域の大会状況について教えてください。

けーしん:競技シーンが特に盛り上がっている地域は、東南アジアですね。『CoD Mobile』のプレイヤー人口自体が最も多いのは、インドだそうです。

昨年は北アメリカとヨーロッパで、アクティビジョンさんが主催する「Call of Duty: Mobile Masters」というリーグが実施されていました。ただ、今年はまだ開催が発表されていません。その他にも各地域で大会が行われているものの、単発での開催が多いため、コミュニティ大会が基盤となっている印象です。

――地域としてはやはり、モバイルゲームの人気が高い東南アジアのプレイヤー層が厚いのですね。海外で主なチームを挙げると、どんなチームがありますか?

けーしん:昨年の2つの地域に分かれたグランドファイナルで、東部地域の1位になったのは、フィリピンの「Blacklist International Ultimate」というチーム。西武地域の1位になったのは、北アメリカの「Tribe Gaming」というチームでした。

コンシューマ版でイメージするような「FaZe Clan」や「OpTic Gaming」などの有名チームは、『CoD Mobile』には進出していません。グランドファイナルに出場するようなトップチームも初めて聞く名前が多く、モバイルならではのチームが揃っている感じですね。

――ここまでにもいくつかチーム名が挙がっていましたが、改めて国内の主なチームを教えてください。

けーしん:現在、国内で活動しているプロチームは、「SCARZ」、「Team Vrilliant」、「BBV Tokyo」、「FOR7」の4チームです。

中でも、主力チームと言えるのは、やはり世界大会で活躍した「SCARZ」と「Team Vrilliant」の2チームですが、メンバーが再編成された「BBV Tokyo」、そして年齢制限をクリアして世界大会に出られるようになった「FOR7」(2022年3月に「芝刈り機〆」から改名)にも期待しています。

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2021年11月開催のプロ大会「GGLPRO SEASON0」にも出場していた現トップ4チーム

――『CoD Mobile』のシーンに興味を持った方におすすめしたい、国内の動画投稿者の方はいますか?

けーしん:まず1人は、YouTubeで『CoD Mobile』の動画を投稿されているIQ(@orz_IQ)さん。「Z-ONE」というプロチームのオーナーでもあり、現在は休止してしまったのですがCoD Mobile部門を持っていたので、プロシーンにも精通している方です。

もう1人は、僕と一緒にずっと大会の解説をやっている、ちんぷろ(@tinpro_touketu)さん。もともとYouTubeで活動されていて、『CoD Mobile』シーズン1の時にゲーム内ランクで世界4位を取った実力から注目を集めた方です。

国内の『CoD Mobile』競技シーンを知っている人で、この2人を知らない人はいないと言えるくらいの方々ですね。


世界でトップを狙える、日本の『CoD Mobile』チーム


――ここまでお話をお伺いして、シーンとしては難しい課題を抱えていることもわかりつつ、日本のチームが世界大会で素晴らしい結果を残せる可能性も大いに感じました。

けーしん:日本の『CoD Mobile』チームは、レベルの高い東南アジアのチームとも渡り合える強さを持っています。Pingの影響はあるものの、ヨーロッパ1位のチームとのスクリムでも勝っていたりします。

実際に「Team Vrilliant」は昨年のグランドファイナルで3位を獲得していますし、優勝したチームとフルマップを戦ったくらい強かったんですよ。しかも、そのチームが今年は現段階から指定端末で練習していることを考えれば、さらに期待は高まりますよね。

昨年のグランドファイナルはオンラインだったので、アジア地域に限定されたとはいえ、Pingの差がありました。今年のグランドファイナルは、オフラインでの開催が告知されているので、本当に期待しています。頑張っている選手たちのためにも、しっかりと国内の競技シーンを保てるように、コミュニティ側から支えていきたいと思っています。

――最後に、記事を読んでくださった方へメッセージをお願いします

けーしん:僕自身『CoD Mobile』のキャスターとして、ずっとこのシーンから離れることなく、さらに盛り上げていきたいという気持ちがあります。記事を読んでくださった皆さんも、ぜひとも一緒にシーンを盛り上げていっていただけると嬉しいです。

――『CoD Mobile』シーンのさらなる盛り上がり、そして日本チームの世界での活躍に期待しています。けーしんさん、本日はありがとうございました!

■GGL#2

・応募期間
2022年3月21日(土)~2022年4月15日(木)

・大会日程
予選トーナメント:4月16日(土)20時~
決勝トーナメント:4月20日(水)、21日(木)20時~

・大会形式
予選トーナメント:64チーム シングルエリミネーション形式
決勝トーナメント:4チーム ダブルエリミネーション形式

■CoD Mobile ワールドチャンピオンシップ2022


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