今年飲んだ良かった酒Advent Calendar 2021 Day3. ARDBEG WEE BEASTIE 5年
3日目に紹介するのは引き続き奈良のクラフトビールメーカー奈良醸造の製品で・・・としようと思ったが、あまり奈良醸造が続くと奈良醸造だけをひたすら礼賛するアドベントカレンダーみたいになってしまい、それは本意ではないので今日は一旦路線変更。改めて3日目に紹介するのは、スコットランド・アイラ島のアードベッグ蒸溜所のウイスキー、「ARDBEG WEE BEASTIE GUARANTEED 5 YEARS OLD」(以下、アードベッグ ウィー・ビースティー5年や、単にアードベッグ5年等と表記)。
アードベッグは甘さのある酒質に強烈なピート香を纏う個性が今も昔もカルト的な人気を持つ蒸溜所で、ウイスキー人気が陰った時代に閉鎖されるも、グレンモーレンジィ社が買収し創業を再開。その翌年にグレンモーレンジィ社が世界最大級の酒類総合メーカーのモエヘネシー・ディアジオ社の傘下に入ったことで、潤沢な資金を手にする。ところが閉鎖していた時期が長かったため、熟成庫には安定供給できる定番商品のための在庫が全然ない。そこで「定番商品の10年熟成品復活までへの旅」として、6年熟成「Very Young(とても若い)」8年熟成「Still Young(まだ若い)」9年熟成「Almost There(もうすぐだ)」そして10年熟成「Renaissance(復活)」というイレギュラー品シリーズ4作の連続リリースを経て、定番商品「ARDBEG TEN」を販売するに至った。
この「10年へのこだわり」があるにもかかわらず、アードベッグが2020年に新たにリリースした定番商品が「5年」のウィー・ビースティーである。
昨今のウイスキー人気を背景とした過大な需要のため、長期熟成したウイスキー原酒は常に不足している。それでも需要に対応するために、様々なメーカーが熟成年数表記の撤廃を行った。「10年熟成とか12年熟成とは名乗れないですが、熟成年数を新旧様々いい具合に混ぜて、元の味をだいたい確保していますよ」とか「目指す味を達成するために熟成年数にとらわれずブレンドしました」というような言い分ではあるが、まあこれは一種の水増しに他ならず、実際評判はよろしくないし、熟成年数が書いていないというだけで本来の味よりも低く見られているような風潮がある。ところがアードベッグは「5年熟成です!若いですが個性があります!」と割り切り、若年数表記という策に打って出た。これが良かった。ウィー・ビースティというのはスコットランド語(ゲール語)でリトルモンスター的な意味の言葉らしいが、実際、爆発的なピートの臭気とスパイシーな味、若いウイスキー特有のアルコールの刺々しさが灼熱感を伴って口の中で暴れる様はその名を髣髴とさせるに十分。舌の痺れが抜けるに従って塩とベーコンの余韻を残し、口中からスッと消えていくのも怪物っぽい。また、ハイボールにしてもそのスモーキー&スパイシーな個性を存分に感じられるし、何より「5年モノ」なので割って飲むのに罪悪感が全然ないので素晴らしい(笑)。かといって勢いだけの酒かというとそうでもなく、じっくり飲めばそれはそれで甘さも塩辛さも煙い香りにも様々な要素が拾え、良くできている。
出来がいいので昨年の販売当初から大いに話題を呼び、通販サイトでは品切れ連発&最大で希望小売価格の3倍以上のプレミアムがつくなどしていたが、現在は概ね希望小売価格よりやや安い値段で落ち着いている。スモーキー&ピーティーなアイラのウイスキーがイケる口なら、買って損はないだろう。