祖父の原稿13

  十三 高松シティーマラソン
 
 平成2年11月18日開催。香川県高松市市制100周年記念市民スポーツフェスティバル高松シティーマラソン。会場は瀬戸内海檀ノ浦に突き出た屋島を一周するコースとある。屋島は小学校の歴史で知った源平合戦で平家が大敗した古戦場で、行ってみたいところの一つだった。直ちに参加申し込みをする。
 歴史探訪も兼ねたマラソン出場に、11月17日21時20分静岡駅発。18日6時32分高松駅着の夜行列車に乗車する。深夜突然の轟音に目覚める。2年前瀬戸大橋架橋記念健康マラソン岡山大会で瀬戸大橋の半分だけ走った橋だ。残りの北備讃瀬戸大橋を呆気なく渡り切って予讃線に合流した。初めての四国に入り高松駅に着いた。歓喜が漲っているのに感動した。
 高徳線に乗り換える。窓外を見る間もなく4、5駅通過したと思ったらやしま駅に着いて下車する。屋島神社の後方霊場八四番祈所屋島寺を抱くという南稜を仰ぎ見て競技場に入る。高松の人達とは小豆島オリーブマラソンのランナーとして数年も前から顔を合わせ、話し合っているが、高松へ足を踏み入れるのは今回が初めて。高松市が100年の市制施行マラソンを企画して全国に参加を呼び掛けたのは何だったのかと、興味津々で参加して来たが、高松市の崇高な市民の健康管理であることを知った。
  高松市民スポーツ憲章
 「健康なからだと心にうるおいのまちづくり」をめざすわたくしわたくしたちはだれでも、いつでも、どこでもできるスポーツ活動をとおして活力ある都市を築くため、ここに高松市民スポーツ憲章を制定する。
 一、スポーツに親しみ、たくましいからだと心を育てよう。
 一、スポーツを楽しみ、世代を超えて友情の輪を広げよう。
 一、スポーツを愛し、正しいマナーと思いやりの気持ちを養おう。
 一、スポーツで競い、厳しさを学び、明日の世界にはばたこう。
    (1987.3.31.高松市制定)
 この崇高な憲章をかかげる高松市長が大会開催のあいさつを開く。

 晩秋の源平古戦場屋島に全国から多数のランナーを迎え、高松市制施行100周年記念市民スポーツフェスティバルのフィナーレを飾る高松シティマラソンが盛大に開催できますことを33万市民と共に心よりお喜びを申し上げます。
 さて近年の高齢化社会、自由時間の増大に伴い、生涯を通じてスポーツに親しみ、健康体力づくりをはかりながら人々との交流を深め充実した人生を送ることがますます重要となっております。この意味で皆さん方は、マラソンを通じて自分からの健康づくりを実践されておりますことは誠に喜ばしい限りです。
 どうか全国からお集まりのランナーの皆さんには瀬戸内海を臨む風光明媚なこのコースをそれぞれの体調と脚力に応じてさわやかな汗を流し、健やかに全員完走されますよう祈念申し上げます。
 市制制定を盛り上げるとはいえ、内容は全て健康管理、高齢化人生の身の処し方の教示で、これまでどこの会場に行っても聞くことのなかった健康に対するこれ程深みのある対応はなく、スポーツに関心の高さに感動した。
 一部13kmコース(競技場〜屋島一周コース)2時間以内で完走できる中学生以上とある。最高年齢91才北海道の男性と年齢差78才総員777名が参加しているのを見てスポーツを愛する者が多いことを知った。
 さらに二部3kmコースへは年齢制限をせず5才の女児が出場している。健康管理に年齢は無いということか。短距離50、100メートルではない。折返し3000メートルもある一般道路を走る幼児に、保護の伴走者まで付ける気配りに感心した。
 10時、老若男女の真ん中に居てピストルの音は聞こえず白旗の上がったのを見てスタートする。トラック1周に時間がかかる。「体調と脚力に応じて走れ」の市長挨拶に甘んじて、競争心を捨て歴史探訪ランに切り替えようやく競技場を出る。電車の踏切を渡ったら、右前方中学校の屋根上に屋島神社を見付けた。四国へ来た実感が湧いた。右折して線路に並走する周回コースに入る。3km地点で大きく左に曲がって瀬戸内に向かって坂道を登り始めた。屋島小学校前を過ぎて右手の展望が開け、海が見えてきた。源氏の那須与一が平家の舟の先に掲げた扇を馬上で引き締まった弓から放した矢が見事射落として両軍から喝采を浴びた檀ノ浦かと興奮した。ポイント5kmを越す。登りが厳しくなってスピードが落ちた。周りは平家の落し子みたいな中学生の集団に揉まれながら長崎鼻北領登山口にたどり着いた。飲み物サービスでコップを受けた。飲みながら静かに広がる瀬戸内海を思い出に残そうとしっかり見定めてスタートする。後は下り坂物見気分を捨ててスピードを上げる。10km地点を過ぎた道幅が半分になってランナー同士の体が触れ出した。接触を避けて走る。競技場に入りトラックを1周してゴール。323位の参加賞を受け取って幕となった。
 歴史を実感し、健康への強い共感を得た。貴い経験の高松マラソンだった。俺の人生の一辺を開いたマラソンだった。

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