泡なのに色がつく
2022年4月にオープンしたスペースLABO(北九州市科学館)の2Fのメインフロアの中で「科学をモチーフにしたアート作品」を展示するということで、新作を作りました。今日は、その作品「いろづくあわ」の話をしてみます。
この記事では「いろづくあわ」の原理について触れます。ある種ネタバレという意味合いもあるので、読む人は「泡に色をつける方法」を考えながら読んでもらうと楽しめると思います。
記念すべき最初の作品でも泡をモチーフに
実は、私は泡を使った作品など自然現象を扱ったテクノロジーアートを作ってきました。「自然現象を扱うテクノロジーアート」ということで、自然と人工(アート)という矛盾したテーマでもあります。
最初に作ったのは、泡で文字を表示する装置です。
上記のBubblyVisionが初期に作った作品です。超古いマックで制御してるのが、個人的にはポイントですが、マックで入力した文字が実際に泡で表示される作品です。下のsiroのホームページに上げているのは2013年に作り直した常設展示バージョンです(AWAMOJIに名前を変更)。
最初に作ったのが大学4年生のときですから、2000年ごろです。工学部のデザイン情報学科という特殊な環境でメディア・アートを志していました。卒業研究に選んだのがこの「泡で文字を表示する」というものです。
実はこの作品を展示していると、色んな人に言われました。「泡に色をつけたらもっとすごいんじゃないか」と。
泡に色をつける
みんな気軽に「泡に色をつけたら」と言うのですが、調べてみても色がついた気体というのはとても限られています。それを使って泡を作るというのは機構的にも難易度が高いです。
そもそも、泡で表示装置を作るというアイデアは、地球だとどこにでもあるような空気を使っているところがポイントだったりします。ポンプは周囲の空気を吸ってそれを送り、その空気で泡を作る。泡が液体から脱出したあと普通に空気に混ざっていき回収しない。なので、色がついた気体が入手性が高く安全だとしても、それを使うのは私としては「採用しないアイデア」です。(回収できない問題など)
それでも、色をつける方法はないかと考えていました。それでひらめいたのが、重ね合わせるという方法です。例えば、C(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)の液体をそれぞれ水槽にいれます。その水槽を並べて重ねていくと、その3つが混ざりグレーに見えるはずです。
このことは、BubblyVisionを作ったあと1年とかの期間に思いついていました。ですが、当時はアクリルパイプを使って作っていたこともあり、高価なアクリルの水槽を作るというのは経済的な理由で「採用できないアイデア」でした。
そして2022年
なんと20年以上の時を経て、このアイデアを実現するときが来ました。そして完成したのが「いろづくあわ」です。今回は2層にしました。シアンと赤の2色で構成しています。
使用する液体はグリセリンです。粘性が高くドロッとしています。そして水槽の厚みは薄く、5mm程度です。すると粘性が高いこともあり、空気はとても不思議な動きになります。途中で分離したりまた戻ったりします。この動きがまたとても魅力的なんです。
若い頃とは違う感覚
若い頃作っていたのは「泡で文字を表示する装置」でした。泡という自然現象を制御し、ねじ伏せ、ドットとして機能させます。電光掲示板のように流れる文字の表示装置として制御下に置きます。
当時は、この「制御が難しい自然現象を制御する」ということに魅了されていたところがあります。なので、泡がより大きく丸くなるためにグリセリンを使用していました。当時工学部でしたし、自分はそういう技術に関してのモチベーションが強いので、ある意味当然のことかもしれません。
その後、いろいろな仕事や作品を経て自分の中でもっと違う視点の感覚が増えていきます。それは例えばKAPPESで作ったMOMENTumでもありました。
MOMENTumという作品では、撥水された表面を転がる水滴の吐出タイミングを制御し、ぶつかりそうでぶつからない動きが魅力的な作品です。ここまでだと制御でねじ伏せた美しさなんですが、水が集まる中央部では、制御しきれず、水の形は気まぐれになります。カオスです。
この制御しようとすることと、制御しきれないことのグラデーションが MOMENTumの魅力だと私は思っています。その制御しきれない部分というのは、ある意味それこそが「自然の美しさ」とも言える部分かもしれません。
制御が難しい魅力的な現象と捉える
今回の水槽の薄さとグリセリンの粘性のあわせ技で、泡の形状はとても複雑なアニメーションを見せます。これは、ある意味作家のコントロールからは離れています。昔の若い頃の自分の感覚だと、こういうアンコントローラブルな状態は嫌っていたかもしれません。でも、今はこれが楽しいわけです。
ぜひ北九州に足を運ぶ際は、実物をご覧になってください。
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