見出し画像

涙をこえて

どうも。

KONGです。

芸術の秋。

学生時代の大イベント、文化祭、体育祭。

KONGの中学校では文化祭とは別に『合唱祭』という催し物があった。

1年、2年、3年の括りではなく、クラス毎に選曲をしての大規模な合唱祭。

部活動中に先輩達の会話で

「うちのクラスはヤマモトがピアノの伴奏する事になった。」

「え!!!ヤマモト先輩ピアノ弾けんの?!」

「キャプテンが指揮者やるんだって。」

「おぉ〜。流石キャプテン…。やるやん。」

などと、学校全体で合唱祭の話題がチラホラ出始めていた頃、KONGのクラスである、1年6組のホームルームで事件が起きた。

(ガラガラ)

教室へと入ってきた担任が教壇に立ち、ニヤニヤしながら口を開く。

「はい!それでは〜!

今から、合唱祭の『伴奏者』と『指揮者』と『曲』を決めまぁ〜すぅ!!

・・・と、言ってももう決めているので、発表しまぁ〜すぅ!!」

巻き起こる大ブーイング。

なんで勝手に決めてるんだ!!

教師の横暴だ!!

もはや学級崩壊寸前。

しかし担任は淡々と喋る。

「曲は『涙をこえて』で、伴奏者はシミズさん!!」

「・・・・・・おぉ〜!!」

謎の拍手が巻き起こる。

この担任は学級崩壊寸前をたった一言で鎮めるあたり、恐らく前世は三蔵法師だったのだろう。

ちなみに、ピアノが弾けるシミズさんに、この曲が弾けるかどうかは、事前に直接確認していたらしい。

「そして、指揮者は・・・貝吹!!」

再び巻き起こる拍手。

ちなみに俺には相談なし。

さらには呼び捨てである。

扱いの差がおかしい。

全力で拒否するも、

「なら、他、誰かやる人ぉ〜?」

ザワつく教室。
しかし手を挙げる勇者はいなかった。

それでも嫌なモノは嫌だ!

気が弱い生徒なら、学校に行かなくなってもおかしく無い状況だろう。

だが、

「貝ちゃんしかおらん。」

「貝吹くんなら…」

「頼むよカイちゃん。。」

なんだこの最終回で、傷だらけの主人公に託すようなシチュエーションは…。

……

悪く無い!!

痒くも無い頭をポリポリしながら

「ちっ・・・仕方ねぇなぁ・・・」

チョロいKONG少年であった。


その後、合唱祭に向けて音楽の授業ではダラダラと練習を行う。

担任や伴奏のシミズさんから

「放課後、今日はピアノ少し弾いていいみたいだから、皆んなで居残りで練習しない?」

と、周りに声をかけていたが、

「合唱祭なんかの練習せんでもえぇやろ。」

と、誰も練習に前向きにならない、ダラダラとした日々が続いた。

その数日後。

公開練習的な名目で、同学年の他のクラスと見せ合いっこする授業が行われた。

相手は1年5組。

指揮者が手を挙げた時から、ピシッと正面を向く5組の連中と、普段は一緒にふざけている仲間も真顔になっており

(へ?皆さん合唱部ですか?)

と、いわんばかりの迫力。

声変わりをしたばかりの中学男子の低音とパワー。
そして女子の綺麗な声が見事なハーモニーを出す。

さらに『指揮者』の圧倒的存在感。

(ドチラサマデスカ?)

と、普段はあまり目立たない男子が超絶イケメンになって、指揮棒を振り、女子達の注目を浴びている。

そして伴奏者との何とも言えない一体感。

(お前ら付き合ってんだろ。)

と、思ってしまう程であり、誰よりも先に大人の階段を登ったような、中学1年生に出せない艶っぽさを出していた。

まるで「Dr.スランプ アラレちゃん」しか置かれていなかった姉の本棚に「NANA」が並ぶような感覚。

こうして見事撃沈した6組。

授業を終えて、暗くなった6組のホームルームで担任が口を開く。

「5組と何が違っただろう?」

それぞれが口を開く。

「指揮者のイガラシが凄かった。」

「カイちゃん指揮するときオシリ出してふざけとる」

「指揮者が真剣やった。」

「5組残って練習してたし。」

圧倒的に『指揮者』『指揮者』と遠回しにKONGへの批判が出ているなか、悔しくて泣いている女子もいた。

でも、泣きたいのは俺だ。

オシリに関しては元々出てるだろ。

そこは気付けよ。

しかし、毎回授業でも先陣切ってダラダラしていたのも事実。

申し訳ない気持ちと、悔しさで逃げ出したくなった。

担任が泣いてる女子の近くに歩みより、一言。

「6組の曲はなんだっけ?」

『涙をこえて』

金八先生もビックリだぜ!!!!!

こうして、6組の猛練習が開始された。

が、他のクラスも猛練習をしているので差が縮まる事はなく日々が流れていき、訪れた合唱祭数日前。

その時歴史が動いた。

ホームルームで一人が質問をする。

「先生。手拍子とかはアリですか?」

担任は答える。

「分からない。でもいいんじゃない?」

ん?つーことは。

手拍子も交えながら、笑いに走ってもいいんじゃねぇのか?

アレよアレよと出て、『カッコいい』より『面白い』に振り切る事になった6組。

そもそも『コンクール』ではなく『祭り』ではないか。

中学生の思考なので、【全体で面白く】ではなく【笑えるヤツを晒し者にする】方にベクトルが向いていた。

標的は勿論KONGである。

KONGは心のなかで

(笑われるのはクラスのみんなじゃなくていい…。

サボった俺だけでいいんだ…。

付き合ってやるよ。)

と、思う事はなく

(オモロイやん…。いいの?)

となっており、

当日は『ミッキーのドデカイ手袋を装着して、盛り上がる所でケツを突き出して客席に指揮棒を振る』といった中学生ならではのギャグで真面目な会場の雰囲気を

『アッ!!』

と、言わせて笑わせる事に、ただただ胸を躍らせるのであった。


こうして迎えた本番。

予想通り真面目な雰囲気の中、ミッキーのドデカイ手袋を着けてKONGが登場して、ケツを突き出し指揮をして、会場は爆笑の渦に包まれる事を想像してニヤニヤしていた。

本番では放送部なのか、生徒会なのかよく分からない生徒が、『各クラスの意気込み』的なのを読んでいる。

「続いては、1年6組ですぅ。

最初はバラバラだったけど、今では毎日のように練習してましたぁ!」

(そうだなぁ。)

「みんなを『アッ』と驚かせる振り付けと、手拍子、そして」

(ん?)

「指揮者の面白い動きと衣装に注目してください!」

(全部言ってるぅーーーーーーーーー!!!)

(完全なネタバレじゃねえかぁあああッッ!!!)

「それでは聞いてください!

『涙をこえて』」

…。

こうして…。

超えるのは涙ではなく、
笑いの壁となった6組の奇襲は失敗し、
高く伸びたハードルを越える事が出来ないまま、壇上でケツを振って、まばらな拍手に包まれたKONGの合唱祭は幕を閉じたのであった。

それでは!

また!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?