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世界一仲が悪い兄弟へ、愛と感謝と期待をこめて


1962年10月5日、The Beatlesが「Love Me Do」でデビューしてから、もう58年が経ちます。そこからThe Rolling StonesThe Whoなどイギリス出身のロックバンドが次々とブレイクして〈ブリティッシュ・インヴェイジョン〉という言葉が生まれるまでになり、まさにイギリスはロックミュージックの中心地となりました。その後もLed ZeppelinQueenPink FloydSex Pistolsなど、ロック史に名を残すレジェンドたちがこの地から生まれています。

そして、そんなThe Beatlesから始まるブリティッシュロックの流れを継承し、90年代の「ブリットポップ」ブームの中心で世界を席巻した、伝説のバンドがいます。

Oasisです。

彼らはその後に続く国内外のバンドに多大な影響を与え、そして何より、英語もろくにわからないわたしに洋楽を聴くきっかけを与えてくれました。

相変わらず英語力には不安があるので(ましてやスラングなんて全くわかりません)、歌詞の面ではあまり語れずちょっと悔しいですが、今回はそんなわたしとOasisとの出会い、そしてその後について、「世界一仲が悪い」ギャラガー兄弟を中心にお話ししていこうと思います。

※後半、映画『Liam Gallagher: AS IT WAS』の内容についての言及があります。ネタバレを避けたい方はご注意ください。


はじめての「洋楽」

Oasisの楽曲をはじめて認識したのは、たしか小学生の頃です。テレビのCMソング(たぶんビールのCM…)として使われていた「Whatever」がとても耳に残り、調べてみたのが最初でした。

それまでは、テレビ番組でBGMとして流れたり、父が観ている洋画でかかる音楽を小耳に挟む程度しか、英語の曲に触れる機会がありませんでした。マイケル・ジャクソンWham! などのよくテレビでかかるアーティストや、両親が時々話題にするThe Beatlesは名前も知っていたけれど、それもテレビで偶然かかったときに聴く程度で、CDをレンタルするなどして積極的に聴くことは一切していませんでした。

調べてみると、どうやらイギリスのめちゃくちゃ有名なバンドで、たびたび来日公演もしているくらい日本でも人気らしいということを知りました。The Beatles以外の外国のバンドをそのときはじめて知ったので、そのインパクトで名前をよく覚えていました。
そしてその後すぐ、その名前をミュージックステーションで見かけることになります。Mステは毎週観ていたし、『クイズ!ヘキサゴンⅡ』が一大ブームだった当時の小中学生はみんな遊助こと上地雄輔さんが好きだったので、その回ももちろん視聴していました。

そこで観たOasisの演奏。これまでに観たことがないものでした。

マイケル・ジャクソンたちはMVでしかその姿を観たことがなかったので、そもそも国外のアーティストが実際にライブをしている光景を(テレビ越しとはいえ)目にしたのもはじめて。その姿に、あんなに大勢の日本の人が熱狂しているのを観たのもはじめてでした。そして何より、手を後ろに組んで、あんなに猫背でマイクを見上げるようにして歌う人をはじめて観ました。全然声出てなかったけど…(たびたびある、リアムの喉の調子が悪い時期でした)
サウンド面でも、それまでに大ハマりしていたMr.Childrenよりロックの荒々しさを感じる、でもTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTよりも壮大でポップ、広がりのあるような音に、こんな音楽が海外にはあるのか、と思いました。もちろんミックスの違いやわたしの先入観もあるかとは思うのですが、日本でOasisのような音を鳴らすバンドをわたしは今でも見たことがありません。

このライブで、わたしのOasisのイメージ、「海外のロックバンド」のイメージができあがりました。やっぱり海外でも熱狂を集めるバンドは違うんだなあと思いました。
でも、この放送回を観ただけで、当時のわたしは満足してしまったのです。


はじめての「イギリスのロック」

その後も、中学生の頃はOasisや海外のロックバンドを聴き込むことはしておらず、なぜか洋楽はマイケル・ジャクソンやEarth, Wind & Fireなどのもっと古いもの、もしくは、吹奏楽部だったこともありグレン・ミラー・オーケストラなどのジャズを聴いていました。その転機になったのが高校への進学です。

高校は通学に片道1時間以上かかっていたので、その「何もしないのにはちょっと長い」時間のあいだ、中学の頃は学校に持ち込めなかったiPodが大活躍します。通い出してすぐに、手持ちのライブラリに物足りなさを感じるようになりました。
吹奏楽も高校ではやめようと思っていたし(そして軽音楽部に入部します)、これまでと違う音楽を聴いてみたいと思ったわたしは、ここでようやくOasisのことを思い出しました。

Oasis、わたしが知らぬ間に解散していました。
しかも、あのMステ出演から1年も経っていないあいだに。なんで知らんかったんや…

そしてこのときに、解散の理由でもあり、Oasisの名物(?)ともいえるボーカル・リアムとギター・ノエルの激しすぎる兄弟ゲンカのことを知ります。裁判するレベルって一体… これを知って、正直「逆によくこんなにバンド活動続けられてたな」と思いました。めちゃくちゃ興味がわきました。
すぐにTSUTAYAに足を運び、まずは手始めに、長年知っていたタイトル『Whatever』を借りてみることにします。
(Spotifyのリンクを貼りたかったのに配信されておらず、調べてみてはじめて、これが日本独自の企画盤だったことを知りました…)


「Whatever」はもちろん名曲でしたが、同時収録の「Cigarettes & Alcohol」のほうが好みなことに気づきます。どこか他人の曲で聴いたことのあるリフ(たびたびノエルはこれをして訴えられています)も、やる気のかけらも感じられないリアムの歌声も印象的でした。
「Is it worth the aggravation To find yourself a job when there's nothing worth working for?(働く意義も感じられないのに、職探しなんてして一体何になるっていうんだ?)」なんて歌詞、今見るといろいろ考えてしまいますね!

そこで、次にようやくオールタイムベスト『Time Flies… 1994-2009』を聴くことにします。そういえば、TSUTAYAのレンタル盤の帯に『タイム・ファイルズ』とどえらい誤植があったのがバイト中ずっと気になっていたんですが、今はどうなってるんだろう。

シングルコレクションなのでどれも名曲なのは間違いありませんが、それでも延々全曲ループで聴いていても飽きがこないアルバムはわたしにとっては珍しく、それはもう頻繁に聴いていました。歌詞の意味はそもそもあんまり聴き取れないので全然わかっていないけれど、それでもわたしはすっかりOasisのファンになっていました。
そういえば、夢のために高校を辞めて留学した友達のため、がんばって歌詞を調べて「Stay Young」を贈ったりしたこともありました。1年後に帰ってきてくれたきり会えていないけれど、彼女、今でも元気かなあ。


そして、洋楽に興味が出てきたこともあり、彼らをきっかけに他のイギリスのロックミュージックをたどるようになります。BlurPrimal Screamなどの同時期に活動していたバンドから、David BowieThe Rolling StonesThe ClashなどのOasisより前から活躍しているアーティスト、またはArctic MonkeysKasabianなどの彼らのフォロワーにあたるバンドまで、ぜんぶこの時期に出会っています。

わたしには、イギリスのロックのほうがアメリカのそれよりも好みに合う感覚があり(今思えば、わたしがロックに出会ったきっかけがThe PiratesDr.Feelgoodなど、イギリスのパブ・ロックから多大な影響を受けているTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTだったのが大きな理由だと思います)、それはもうずぶずぶと聴きあさっていきました。
そして、これくらい広く浅く聴きあさっていると部活の友達よりも知識がある状態になります。友達との話題に困らなくなったわたしは満足してしまい、これ以上深追いすることもなくなってしまいました。


「影響を受けたバンド」

軽音部に入る高校生は、基本的には「現在も活動している国内のバンド」が好きで「自分もやってみたい!」という理由で入部します。わたしの世代ではONE OK ROCKがその筆頭でした。ミッシェルにOasisという、まるで一世代前を生きているような趣味のわたしは、ワンオクを入部してから初めて聴きました。

これは由々しき事態だと思ったわたしは、できるだけ「いまも活動中の日本のバンドを聴こう」と努力することにします。そのときに出会ったのが、当時インディーズから人気が爆発したばかりの頃、まだ[Champagne]名義だった[Alexandros]でした。その直前までやたらと聴いていた洋楽のような音楽性だったのが、当時のわたしの耳には心地よかったのだと思います。めちゃくちゃハマり、授業終わりにライブハウスに駆けつけたこともあるほどでした。
そして、この[Alexandros]のギターボーカル・川上洋平さんが「影響を受けたアーティスト」として挙げているひとつに、Oasisがいました。なんなら、当時の名前[Champagne]の由来は、Oasisの名バラード「Champagne Supernova」とのこと。めっちゃ影響受けとるやん。

さらに、まわりより周回遅れでASIAN KUNG-FU GENERATIONを聴くようになります。そのギターボーカル・ゴッチこと後藤正文さんは「Live Forever」を聴いたときの衝撃を「この曲を聴いてなかったら自分が音楽をやってなかったんじゃないかというくらい」とまで評しています。

(タイトルはWeezerの話ですが、リンク先では最初にOasisの話をされています)

日本のバンドマン、だいたいOasis聴いてきたんか??

わたしも無意識のうちに感じ取ってしまっていたのでしょうが、好きなバンドのソングライターが自分と同じ音楽を聴いていたことがなんだか嬉しかったし、今はもう活動していないOasisのエッセンスが遠い日本でもこのように生きていることに、なんだか不思議なものを感じました。これは、もっとちゃんとOasisを聴かねばなるまい。

そこで、オールタイムベストには未収録だった「Champagne Supernova」が収録されている『(What's the Story) Morning Glory?』を最初に、デビューアルバム『Definitely Maybe』『Be Here Now』と、オリジナルアルバムを聴き進めていきました。

アルバム曲では『Be Here Now』の「I Hope, I Think, I Know」が好きです。ノエルが記者と揉めて書いた曲というのは今知りました。


また、時期は後にずれますが、今や爆発的な人気を誇るバンド・King Gnuのギター/ボーカルであり、ソングライターの常田大希さんも「Live Forever」をフェイバリットに挙げています。いやOasis、日本のロックバンドに影響与えすぎやろ。


『AS IT WAS』

オリジナルアルバムを一通り聴いたあとは、またOasisを聴かない時期が続きました。アニメソングばかりを聴くようになり、そのあとは日本語ラップを聴くようになったりしていて、聴いたとしてもお気に入りを数曲聴くくらいでした。
Oasisを聴いたあとには、一応それぞれの活動であるNoel Gallagher's High Flying BirdsBeady Eyeもチェックしましたが、それぞれ1stくらいしか聴かずにいました。それの転機になったのが、Oasis解散後のリアムに焦点を当てたドキュメンタリー映画『Liam Gallagher: AS IT WAS』です。

もともと上映館も少なく、さらに減ってきてはいますが、まだ公開中です。わたしも昨日10/8に観たばかりです。

Oasis以降の活躍は全然知らなかったので、Beady Eyeが解散していたこともこの映画で知りました。2ndアルバム『BE』が酷評されていたことまでしか知らなかった…
最初のインタビューから、まさにリアムらしくFワードばっかり飛び出るのには笑ってしまいましたが、Beady Eyeからソロに転向するまでのどん底期の話をするときにはまったく出なくなっていて。当時の彼が普段の自分を見失うくらいつらかったことを想像できて、それが映画の中でいちばん印象的でした。
その口と素行の悪さから、良くも悪くもリアムには「ロックスター」の印象が強かったのですが、実際の様子を見てみると彼の子供のような無邪気さ・かわいらしさとか、家族を心から大切にしているところとか(ここがねじれてノエルとの不仲に繋がってしまうのかもしれませんが)の「人間」の部分がとても伝わってきて、観終わったあと、なんだかとても彼がいとおしく思えました。あと何より、喉の調子を悪くしやすいとはいえ、Oasis時代とほぼ変わらない声とスタイルで歌い続けられているのも奇跡的だなと思いました。
そして、無性に今の彼の音楽が聴きたくなりました。

帰り道にさっそくSpotifyで検索して(Spotifyいつもほんとにありがとう)、リアムのソロを人気順に聴いていきました。映画で描かれたとおり、Beady EyeともOasisとも違う、今のリアム・ギャラガーの姿がそこにありました。絶賛通りの文句なしの名盤! もっと早く出会うべきでした。

予告編でも印象的に使われている「Wall of Glass」、やっぱり何度聴いてもテンション上がります。


それぞれの今と、少しの期待

一通り聴き終わると、Spotifyのリアムのトップページ「ファンのお気に入り」の欄に、Noel Gallagher's High Flying Birdsの文字があることに気づきます。みんな考えてること同じだな! もちろん、次はこちらも聴くことにしました。

最新曲で、打ち込みの方面に向かっていたのは意外でした。

音楽理論はおろかコードもろくにわからないのですが、ノエルの書く曲といえば、Oasis時代も1stも「明るい響きだけのコード進行はせず、どこかにちょっと暗く切ないドラマチックな響きを混ぜる」ものばかり、それが彼の曲の魅力と思っていたので、この変化にも驚きました。
「Holy Mountain」とか最初から最後まで明るすぎてびっくりしました。

でも、いつもノエルは自分の最新作を自信満々でリリースしてくれるので(『Who Built The Moon?』発売記念インタビューでは「3曲目を聴き終わる頃には気絶しているだろう」とまで言っていました、最高)彼が本当に満足して制作活動をしていることがわかるし、安心して聴けました。この揺るぎない自己肯定感、ほんとうに見習いたい…


しゃがれていて、まっすぐ突き抜けるようないかにも「ロックスター」の声(Wikipediaを見て「ジョン・レノンとジョン・ライドンの融合」と評されていることを知りました。なんて素敵な喩え!)のリアムと、反対に落ち着いた優しい響きの声を持ち、自分の歌う曲はすべて自分で手掛けるノエル。それぞれの持ち味を生かして、ソロ活動で全く違うアプローチをしてくれるのも面白いですが、また何かの手違いで一緒になにかしてくれないかなあ。それこそ、さっきの「Holy Mountain」なんて、リアムの声もバッチリハマると思うんだけどなあ。

(ボロクソ言ってるから難しいかな…)



そして今日、10/9はジョン・レノンの誕生日です。
The Beatlesを敬愛するギャラガー兄弟は、それぞれしっかり祝福のコメントをツイートしています。

なんだか、2人が同じことを思っていると思うと嬉しくなりますね。

『AS IT WAS』劇中で、2人の母・ペギーが「ふたりともいい年で何があるかわからないんだから…(ノエルと和解してほしい)」とリアムに諭す場面がありました。公私のパートナー・デビーも、予告編で抜かれているとおり、彼の兄への思いについてパートナーの目線から語っています。

再結成じゃなくてもいいから、ほんとに元気なうちに、またなにかしてくれないかなあ。Oasisのおかげで海外の音楽に触れることができたわたしにとって、人生で大きな意味を持つ大切なバンドだから、やっぱりこの目で2人が並んでいるところを観てみたいと思ってしまいます。

時間がかかってもいいから、せめて2人とも、ずっと元気でいてくれよ。


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