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【ADL】役所の委託調査報告書で読む戦略ファームのお仕事(2)

はじめに

 お世話になっております。前回のNoteが局地的なご好評を得たので、嬉しくなり第二弾を書きました。

モビリティ市場分析/事例スライド【ADL】

 この報告書、唖然とするほど良く出来ていたので、長くなりますが以下ご紹介させてください(※今回はこれだけです)。ADLは、RBと同様少数精鋭の米系ファームです。報告書の全体版はコチラです。結論から申し上げると、自動車産業/モビリティサービスに関わる方は必読というか、このパッケージ見ればリサーチの半分終わるレベルではないかと思います。

 Disclaimer:私はAutoの出身ではないため、個々のスライドの専門的当否はわかりません。ざっと拝見して中身が詰まってそう(一部のパートナーがよく使う判断手法)なのでご紹介させていただきます。

 さて、この報告書は、経産省の自動車課向けにモビリティサービスの全体像と海外/国内動向を調査したものです。まずすごいのは、市場の全体像を一枚で表現していることです。ご案内のとおり自動車産業/モビリティサービスの生態系はめちゃくちゃ複雑なのですが、それを思い切って捨象して一枚で示したのはかなりすごいです。

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 こういう風に、示唆が丸まらないレベルでバリューチェーンの全体像を一枚で示すのは勇気がいることであり、作成者の力量が問われますね。
 (ちなみに早速しょうもない余談なのですが、金融業界の一員としては、一般的なサービス提供者をサービサーと称するのは少しだけ違和感があります。金融的には、サービサーと言えば債権回収を代行する業者のことを限定的に指すものです。まあコンサル時代にも金融以外のインダストリーの人達は広い意味で使っていた(異議申し立てをしていたのは私のようなサービサー警察だけ)ので、拡張的用法が人口に膾炙することの一例なのかもしれません)

 バリューチェーン中流のモビリティサービスについては、更に切り開いて類型化しています。こちらもかなり思い切った分類だと思いますが、直感的にわかりやすいですね。

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 一覧化のメリットは、以下のスライドのように、全体像の中でどこが変化のポイントなのか/どこがボトルネックなのかといった議論がしやすいことです。一回のミーティングでの受け手の処理能力には限りがあるので、こういうサマリスライドを横に置きつつ、議論の現在地を共有することは重要です。

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 で、こういうサマリスライドがあった上で個社の事例スライドに移るわけですが、100枚以上あるにも関わらずいずれもよく出来ています
 一枚だけご紹介すると以下のスライドです。よくWebサービスの事例スライドで使うのですが、アプリの遷移図を実際に示しながら、どこが優れているのかをポイントで書きます。視覚的にわかりやすいですね。

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 また、規制動向等もよくフォローできている気がしております。

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 ちなみにですが、上記のような事例スライドはゼロから作っているわけではなく、グローバルファームなら海外事例が社内のイントラに転がっているので(もちろんクライアント個社に関わる情報は掲載無し)、それを一部転用したものではないかと推察しています(そうでなければフィーと人月チャージのバランスがとれないと思う)。上記のスライドなんか直訳感があり、元は英語だったのかなと思います(Disっているわけでは全くなく、社内の知見をレバレッジすることは非常に正しいです)。
 官民のクライアントが、多少高くてもグローバルファームを使う理由の一つだと思います。もちろん事例を集めるだけならクライアント側でも出来るので、そこからインプリケーションを出すことが戦略ファームの付加価値の本質です。

 さて、このパッケージの前段では上記のような事例が続くのですが、後段では、「もしそういった新たなモビリティサービスがトラディショナルな産業に適用されれば、収益性はどう変わるのか」という点まで踏み込んでいます。

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 こういった費目のウォーターフォールや損益分岐のスライドは、企業やファンド向け案件でもよく見ます。このスライドの中身自体をめちゃくちゃ素直に読むと「収益性あんまり変わらない…?」となりますが、それは当該サービス自体の公益性の高さゆえのことだと思います。変にクライアントにおもねるのではなく、最大限マジレスをしている点で好感が持てます。
 (ちなみに分析結果はこれだけではないため、この2枚をもってMETIとADLを批判するのはお控えくださいませ)

 なお、これも余談ですが、METIをはじめとする省庁が個々の企業経営に介入することは私は強硬に反対です(元役人ですが)。他方、ある政策が企業の収益性にどのような影響を与えるのかについては常にご考慮いただきたいと考えており、その点で当該報告書の後段は非常に意味のあるものだと思います。

 以上、ADLの自動車産業に関するレポートのご紹介でした。ざっと拝見しただけですが、かなりよく出来ていると思われます。他にもいくつか素晴らしいレポートを見つけたので、(古巣の役所かファームから叱られが発生しない限り)また次回以降ご紹介させて頂ければ幸いです。引き続き宜しくお願い申し上げます。

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