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おうちシネマ 【光】

奈良出身の河瀬直美監督の映画です。彼女はカンヌ映画祭で史上最年少でカメラドール(新人監督賞)を受賞し、その後もいくつか賞を取っている方です。

まず、映画を最初に観て感じたのは、奈良の空気が流れていることです。
奈良には何度か通っていた時期があり、その時に感じた穏やかでのんびりとした空気そのままだったのです。映像でも奈良の風景が出てくるのですが、それよりも、入ったことのないビルの中の部屋やそこで人々が話す雰囲気などに懐かしがこみ上げることがありました。
ストーリーは日常の一部分を切り取り、登場人物たちと同じ目線の高さで見ているような感覚で描かれています。

主人公美佐子はディスクライバー*をしている。今回は、妻がアルツハイマーになった老夫婦の物語『その砂の行方』という映画の視覚障害者のための音声ガイドの脚本をつくることになった。彼女は視覚障害の方々に映画のセリフに合わせた自分のナレーションを聞いてもらい、みんなの意見を聴きては修正し、試行錯誤を繰り返す。視覚障害者のうちの一人に、元天才カメラマンだった中森がいる。彼は美佐子にストレートに色々ダメ出しをする。彼女はそんな彼に反発をして悩みながらも、自分の仕事と中森や他の視覚障害の方々と誠実に向き合い、脚本づくりに奮闘する。

*音声ガイドの脚本原稿を執筆する職業

美佐子の仕事はとても難しいものだと思いました。
彼女には視覚障害はないので、その人たちが、どのように世界を掴み、感じとるのかを自身の中で考えなければなりません。情報を与えて的確にし過ぎてもいけない、彼らが想像力を働かせてイメージする余白も必要。しかし、それをしすぎて映画の中身が希薄になってしまってもいけない。

視力を失い、命同様だったカメラを失った中森はとても苦しい状況の中にいると思います。また、美佐子も父を亡くし、母はアルツハイマーで悲しみや心配があります。しかし、そんな二人が出会い、ともにお互いの支えとなって生きる。そんな希望を見た気がします。

この映画の中で「光」とは希望、生きる意志を表すものだったのかなと思います。


追伸:最後の『その砂の行方』での樹木希林のナレーションもよかったです。

ドイツの美味しいもや面白い場所の発見に使わせていただきます!