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大衆中華料理店の賑わいの喪失。

「天壇」2021年2月22日(月)

日の長さ、砂利が散らばる歩道の露出。
まだまだダウンコートは脱げないものの、日中の気配は冬の終末を予告していた。
身を切る風も冷たくても、その気配は希少なエリアへの誘惑を駆り立てた。

ビジネスビルやホテルの犇めく札幌駅の西エリアは、人の気配は著しく少ない。
有給休暇取得による4連休のせいもあろう。
しかも在宅勤務や時差出勤、あるいは適所勤務という目まぐるしい勤怠の変容に、このエリアも無人の倦怠感に埋もれているようであった。

以前訪れたことのあるビルの地下に向かった。
人の熱量どころか、廃墟のような様相を呈する不気味な空気感に一瞬たじろいだ。
力ない筆力で「本日のランチ」と書かれた貼り紙が目に飛び込む。
この店の格安なメニューの数々は、多くの会社員を呼び寄せた記憶が蘇るも、営業しているのかどうか入店しなければ判然としなかった。
幾人かの客が黙々と食事していた。
以前の記憶と照らし合わせると、ソーシャル・ディスタンスゆえかレイアウトが変わり、客席が減ったように思われた。
「本日のランチ」の料金設定にあらためて驚愕を抱きながら、味噌ラーメンを選んでそれを待つことにした。
血縁関係があると思われる男性2名が厨房でそれぞれ分担して調理を始めた。
そのメニューは速やかにテーブルに置かれた。
ラーメンとチャーハンという大衆中華料理の王道は、時折訪れる獰猛な食欲を目覚めさせるものだ。
まずは味噌ラーメンのスープを啜った。
昔ながらの味噌は、しかし濃厚さと狂おしい熱量を帯びていて、麺はと言えば中太の縮れ麺でどこか懐かしいものの、チャーハンにレンゲを運ぶと作り置きのような冷め様で、その対照的な温度感は交互に食することを催促した。
チャーハンの味が薄く感じるのはその冷たさなのだろうか?その薄味を中和するように味噌ラーメンのスープを啜った。
驚愕の料金であることには変わりない以上、多少の欠陥は致し方あるまい。しかも割高なランチメニューが多い札幌駅周辺においては類い稀な存在である。
チャーハンの冷たさを凌駕する味噌ラーメンの熱量に、仄かな汗が漂い始めた。
夕方には体の其処此処に浮腫みを感じることを予感した。
外は、さすがにダウンコートなしでは肌寒い。
が、吹き抜ける晩冬の陽光と風は、仄かな汗を滲ませる体には程よい優しさであった…

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