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【人生最期の食事を求めて】松山のソウルフードに浸る春の夜。

2023年3月14日(火)
中国料理 万寿(愛媛県松山市二番町)

路面電車を彩る黄色、タクシーの外観を染める黄色、道後温泉を飾る多彩な色。
そして、3月とは思えぬほどの優しく穏やかな日差しの彩りすら、松山とはなんと華々しい喜色に満ちた街であろうか。

そして、この街ならではの魚と酒を愉しみ、締めともいうべきものを紹介されたのは“タールメン”という聞き慣れぬメニューであった。

伊予鉄道
大街道
道後温泉

夜の街に表情をしつらえた二番町。
そこでも黄色いネオンサインが鮮やかに道端を照らしている。
「中国料理 万寿」。
松山市民の誰もが知るかはさておき、この店といえば「タールメン」一択であり、しかもソウルフードだと豪語する。
翻ってソウルフードとは和製英語であるのだが、それを是正するつもりは毛頭ない。
その意味は様々な使われ方を経てマスメディアやソーシャルメディアでも多用され、現在のように使用されるに至ったのは確かだ。

中国料理 万寿

明らかに地元民しかいない店内の奥のカウンター席に座し、さっそく「タールメン」900円とビールを注文した。
たっぷりと酒を飲んだ後のビールはどことなく優しい。

メニューには五目あんかけと追記されてはいたが、タールメンとものがそのネーミングからしても想像できないもどかしさをGoogle検索で調べていくと、どうやら油状の物質であるコールタールを由来したネーミングであるらしい。
なるほどかなり粘りつくようなラーメンは想像できたが、だからといって食欲が喚起されたかというとそんなはずもあるまい。
『松山市民はそんなものを食べてソウルフードとして自慢あしているのか』
そんな疑念をビールで流し込んで消し去った。

それが突如として飛来した。
丼の中央に大量の胡椒がかかっているというよりも、むしろ盛られていると言ったほうが適当かもしれない。
確かにスープは見渡す限り粘着力が強そうで、その下に眠る麺の姿は確認できない。
麺を持ち上げようとすると、まさにコールタールのような餡がそれを跳ね除けようと抵抗する。
その抵抗に屈することなく麺を持ち上げると卵や野菜が纏わりついてきた。
グロテスクな外貌とは別の胡椒の刺激が食欲を刺激するのだが、熱量を帯びた餡がそれを拒絶する。
麺もまた松山のシンボルカラーを模した黄色で、細いストレート麺が餡を交わすように美しい。
それは、五目あんかけラーメンと言えるのだが、タールメンというネーミングの妙は、まさにソウルフードとしての知名度向上と存在の確立にも配慮したのかもしれない。

タールメン

それにしても餡の熱さは尋常ではなく、ビールをしきりに催促した。
徐々にその熱さにも慣れてくると、タールメンとの奇妙な合意というべきだろうか、癖のある味わいがもはや癖になりつつある自分に気づいた。

こうしてソウルフードというものが地元から発しされ拡散していくことを、私はまざまざと体感するのであった……

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