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「ヴァイオリン 桐原宗生の世界」〜コルンゴルトへの愛を込めて〜

 JNO Presents リサイタルシリーズ
 「ヴァイオリン 桐原宗生の世界」
〈オール・コルンゴルトプログラム〉

 気になっていた公演。タイミングも合ったので突発的に聴きにいきました。何より奏者が本当に好きなものを弾いているのが伝わってきて好印象。

 演奏機会は増えているもののまだ馴染みの薄いコルンゴルトで固められたプログラム。フライヤー裏のコメントからも桐原自身のコルンゴルト愛が伝わってきていたが、前半後半の各冒頭で入る彼のMCにも熱が籠る。

 前半、「雪だるま」よりのセレナーデ、「死の都」抜粋と、歌曲もしくは歌唱性の強い楽曲は穏やかに、決して高らかにならず歌い上げる一方で、「から騒ぎ」の組曲では、ヴァイオリン的技巧、そして第4曲ではJewishな雰囲気も感じる弾きぶりで見事に魅せる。
 曲自体から求められる以上には決して技術や音色をあからさまにひけらかす訳でない演奏からは、この音楽を愛して、その共感を持って奏でているのがよく分かる(充実したMCのおかげで尚の事感じるのだろう)。

 後半のヴァイオリンソナタも手の内に入った演奏。演奏時間は40分近くになる大曲だが、熱の入った演奏に引き込まれ続け、充実感ある後半だった。

 休憩時間に予習も兼ねてGoogleで、「コルンゴルト ヴァイオリンソナタ」のワードで調べてみると、今回のピアノの久保山のブログが早い段階でにヒットする。攫い始めた頃の内容らしいが2018年1月の投稿とな。ヴァイオリンと同等、もしくはそれ以上に要求が高いであろうピアノ。2人揃ってこのハーモニーやリズムの変化に富んだ楽曲をこれだけ充実した語りで見せるまでになるには充分な時間だと納得する。

 曲そのものは、退廃的な世の中の不安とも心情的な揺れ動きとも何処か違う、浮世離れしたような、揺蕩う金色の大気のような音楽。類似的なモチーフを多用しつつ、半音階的な進行で発展させていくのは、少し単純にも思えるが、まだ10代半ばの彼にしてひとつのスタイルと言えるような特徴的要素。1楽章の結尾は見事で、3楽章の歌や4楽章の変奏も、一聴の限りでも興味深いものがある。

 静かに閉じられるソナタの後、万雷の拍手に応えたアンコールは、もう一曲歌曲。「月よ 君は今宵もふたたびのぼる」。美しくもどこか哀しいような夜の光景は、帰路の柔らかな余韻にそのままつながった。

2021. 10. 14

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JNO Presentsリサイタルシリーズ 
ヴァイオリン 桐原宗生の世界 

<オール・コルンゴルト・プログラム>
パントマイムのための劇伴音楽「雪だるま」より
セレナーデ

歌劇「死の都」作品12より
 マリエッタの歌"私に残された幸せ"
 ピエロの歌"私の憧れ、私の幻はよみがえる"

「から騒ぎ」による組曲 作品11から4つの小品

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ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 作品6

アンコール: 「月よ 君は今宵も再び昇る(原題: Mond, so gehst du wieder auf)」作品14-3

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桐原宗生(ヴァイオリン)、久保山菜摘(ピアノ) 
2021年10月14日 浜離宮朝日ホール

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