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タイ国 サトゥーン世界ジオパーク訪問記


2023年12月25日~31日に、タイにある サトゥーン ユネスコ世界ジオパークを巡検してきました。
日本地学教育学会では会員向けの海外研修を毎年行ってきましたが、コロナ禍のため2019年の韓国(釜山・済州島)以来中断していました。今回は久しぶりの実施です。
ジオトレアカデミーでは、サトゥーン ユネスコ世界ジオパーク公式の写真集(タイ語および英語表記)の和文翻訳版および案内本の出版を予定しています。そこで、その取材を兼ねて本研修に同行参加しました。

日本からの参加者は学会会員および関係者の17名。現地案内として、タイ国鉱物資源局のパンヤさん、チュラロンコン大学のビチャイさん、チャナカンさんの3名の専門家に同行いただきました。移動手段や宿泊先・食事の手配から現地案内まできめ細かいサポートを頂き、安心しかつ楽しい巡検となりました。ありがとうございました!

旅程

12月25日 11:45 タイ国際航空機にて成田を出発。バンコク・スワンナプーン国際空港経由でハジャイ国際空港に向かいます。
1日目はハジャイ市内のホテルに宿泊です。20:00頃にはハジャイに到着する予定でしたが、前日からの大雨のためハジャイ国際空港までのトランジットの機体が到着しておらず、バンコクの空港で買い物や飲食で時間つぶし。
結局、4時間遅れでハジャイに到着し、ホテルに着いたときは日付が変わっていました。

翌日より、以下の旅程で巡検を行いました(図1)。
<26日>
 ■ハジャイにて食事や市内の市場見学
 ■サトゥーンに移動 (1)カオ・トゥ・ンガム タイムトラベルゾーン散策
<27日>
 ■(2)サトーンジオパーク博物館、古代像博物館を見学
 ■(3)レ・ステゴドン洞窟~マングローブの森をカヤックトレイル
 ■(4)ターン・プリュー滝の石灰華プールを見学
<28日>
 ■(5)カオ・ノイの露頭(オルドビス‐シルル紀境界)、(6)(7)ヒン・サーライの露頭(ストロマトライト)見学
 ■(8)プー・パー・ペット洞窟探検
<29日>
 ■小型船にて、(9)プラサート・ヒン・パンヨード、(10)Ao Toa Ba、(11)Gray sand beach などクルージング、各所で石灰岩地形や化石等を観察
<30日>
 ■(12)パンヤ・バティックにて絞り染め体験
この後、ハジャイ市内にて市場見学後、ハジャイ国際空港へ向かい夕方の便でバンコクに向かいました。

図1 訪問地マップ

タイ南部の風土に触れる

バンコクから飛行機で1時間20分ほどで、ハジャイ(ハートヤイ)に着きます。ハジャイはソンクラー県の中心都市で、タイ南部における物資や文化の集積地となっています。華僑やマレー人なども多く、仏教やイスラム教を始めとする多文化が共生する街です。
市場では、生野菜・肉・果実などや加工品の露店売りが並んでいました。飲食はタイ料理はもちろんですが、点心料理など中華系が多くみられました。サトゥーンはハジャイに比べ飲食などで選択の幅が限られますが、ここはだいたい現地価格なので、味の好みが合えば安くおいしいものが食べられます。
タイではどこでも見られるセブンイレブンやアマゾンカフェも、もちろんありますが、価格は日本で買うのとあまり差はありません。

写真1 ハジャイの市場とサトゥーンでの食事

マレー半島は天然ゴムの一大生産地です。
ハジャイからサトゥーンまでは車で2~3時間ほどかかりますが、この道中の台地の上には天然ゴムの農園林が広がっており、天然ゴム生産がこの地域の主要産業であることがよくわかります。
また、石灰岩の山が広がった土地のため、昔からその風化土壌を顔料とした染色が行われていたそうです。
サトゥーンが世界ジオパークに認定されるのを機に、化石模様の染め物を作っています。巡検最終日にはパンヤ・バティックという工房で絞り染め体験をしてきました。よいお土産ができました。

写真2 天然ゴム農園とパンヤ・バティックでの絞り染め体験

古生代の地質模式地を巡る

タイの地質は、古生代にゴンドワナ大陸の大陸縁の各所にあった複数の地塊(微小大陸)が、プレートの移動に伴い寄り集まってできたと考えられています。
サトゥーン地域は、古生代に堆積した砂岩・泥岩や石灰岩などが基盤となっており、ここでは三葉虫やオウムガイ、筆石、コノドントなど様々な古生代の示準化石を観察することができます。
今回は、その代表的な地として、カオ・トゥ・ンガム、カオノイ、ター・レー・ロックス、そしてカオヤイ島を訪れました。

カオ・トゥ・ンガム

カオ・トゥ・ンガムでは、カンブリア紀(約5億4千万年前〜約4億8千万年前)とオルドビス紀(約4億8千万年前〜約4億4千万年前)の境界とされている地層を観察することができます。
この露頭はムーコペットラ国立公園内にあります。
入場料100バーツを払って「Time Travel Zone」のゲートを通り、石灰岩の岸壁沿いの遊歩道を歩いていきます。しばらく歩くと、赤い色をした泥岩・砂岩が見えてきます(写真3)。この赤い色をした泥岩・砂岩層には斜交葉理や淘汰の悪い礫などが見られ浅海での堆積物と見られます。
この赤色泥岩・砂岩層の上に低角の断層を境界として石灰岩層が載っています。ここがカンブリア紀とオルドビス紀との境界で、この断層の成り立ちについて正断層によるものとの解説看板が設置されていました(写真4)。
ただ、実際に観察してみるとどうも正断層ではなく逆断層に見えます(写真4のずれの様子を見てください)。

写真3 カオ・トゥ・ンガムの”タイムトラベルゾーン”を歩く
写真4 カオ・トゥ・ンガムのカンブリア‐オルドビス紀境界の断層

サトゥーン ジオパーク博物館

トゥンワーの集落の近くにあるジオパーク博物館では、サトゥーンで産出した化石が展示されているほか、ユネスコ世界ジオパークに認定されるまでの経緯や産出された化石などが展示されています。
まずは、ここを訪れてサトゥーン世界ジオパークについての認識を深めた後にジオサイトを巡ると良いでしょう。

写真5 サトゥーンジオパーク博物館を見学

カオ・ノイ

この砕石場跡の露頭の地層は、オルドビス紀(約4億8千万年前〜約4億4千万年前)とシルル紀(約4億4千万年前〜約4億1千万年前)の境界となっており、筆石などの化石をみることができます。
境界を示す標識や案内図が設置されていますが、実際にはよくわかりません。
ここでは、みなさん筆石の化石探索に熱中していました。

写真6 カオ・ノイのオルドビス‐シルル紀境界露頭で化石を探す

カオ・ノイの露頭から数百メートル東に行ったところにあるター・レー・ロックスは、ゴム農園の中に露出した石灰岩岩体で、風雨から守るように覆いが建てられ、また傍には祠があり大事にされているようです。
オルドビス紀後期のストロマトライト石灰岩で、写真でよくみる世界各地の有名なストロマトライトに比べ小さな構造をしています。露頭の前ではその成因を巡って大いに盛り上がりました。
また、近くの露頭では化石を見ることもできました(写真7)。

写真7 ター・レー・ロックス(ストロマトライト石灰岩体)と付近の石灰岩の露頭にある化石

カオヤイ島クルージング

29日はパク・バラの海岸から小型船に便乗して、カオヤイ島周辺を巡るクルージングです。ここでは、プラサート・ヒン・パンヨード、Ao Toa Ba、Gray sand beach などを巡り、各所で石灰岩地形や三葉虫、オウムガイなどの化石を観察しました。

写真8 パク・バラから石灰岩の島々のクルージングを満喫

洞窟探検

サトゥーン世界ジオパークには古生代オルドビス紀の石灰岩がつくるカルスト地形が広がっており、多数の洞窟があります。これら洞窟では鍾乳石などの様々な造形を楽しむことができますが、洞窟内の生態系や化石、考古学的遺物などが発見されており学術的にも貴重です。
今回の巡検では、レ・ステゴドン洞窟とプー・パー・ペット洞窟を訪れました。

レ・ステゴドン洞窟

レ・ステゴドン洞窟は地下河川が流れており、カヤックで洞窟内を巡る約2時間のアクティビティを楽しめます。洞窟を抜けると、河川はマングローブの森を通って海まで出ることができます。
洞窟内では、様々な鍾乳石の造形を楽しむほか、カニやコウモリなど洞窟内に生息する生物をいくつか見ることができました。

写真9 レ・ステゴドン洞窟からマングローブの森をカヤックトレイル

プー・パー・ペット洞窟

プー・パー・ペット洞窟は地上から約50mほど登ったところにある大鍾乳洞です。この洞窟は修行をしていた僧侶によって発見されたとのことですが、現在では観光洞窟として整備されており、地元のガイドが発見の経緯や見どころを案内してくれます。

写真10 プー・パー・ペット洞窟をトレッキング

縄文人の親戚との出会い

ハジャイのあるソンクラー県とサトゥーン県の境界は山脈となっていますが、その森林の中には少数民族であるマニ族(またはマニク族)が狩猟採集生活をしています。人口は300人ほどとのことです。
このマニ族は、縄文人と近いDNAを持っているということで、NHKでも紹介されました。
今回は、古代像博物館を訪れ、このマニ族の歴史について解説をしていただきました。また移動中に運よくマニ族?と見られる人々を見かけることができました。

古代像博物館

サトゥーン ジオパーク博物館の隣にはトゥンワー古代像博物館があります。
ここは、ゾウの歴史だけでなくサトゥーンの歴史や風土・文化に関係する資料も展示されています。

写真11 古代像博物館でこの地で暮らす少数民族についての説明をうける


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